Episode 41「no name」
◇フレファー大平原◇
私たちは今、戦場の真上にいる。
幸運にも、即席の旗っぽい物を掲げているから、どっちがどっちなのかわかりやすい。
黒色が私、白色がアリスさんってところかな。
うん、これだと私が悪者みたいんなんだけど……それはこの際どうでも良い。
そしてここからは、クロ、フレアさん、ヘッドさん、ミズキ、私たちの戦場でもある。
「じゃあ、始めよう!」
「おっしゃぁ、暴れまくってやるぜ!」
「イベント以上の大規模戦闘ねっ」
「いよいよ私も無双できるぞ~!」
私たちは、クロから飛び降りた。
空を舞う、黒い竜たち。因みに、ヘッドさんの装備も黒いので、それっぽく見える。
「おいおいおい、こりゃすげえなぁっ!」
「命綱無しのスカイダイビングよ~!」
「ちょ、だめ、私ダイビングは無理ぃぃ~!」
「あの、落下ダメージって物理ですよね? そうじゃなきゃ死んじゃうんですけど……」
◇ ◇ ◇
私のプレイヤー名は〝no name〟。
しがない紳士です。
リアルはサラリーマンとして日々働き詰めの毎日でしたが、1ヶ月程前、小学校から付き合いのある親友にとあるゲームを勧めてもらいました。
初めは戸惑ってしまいました。
高校生まではゲーム
とは言っても、お金に困ってるというわけではないのです。
私は社会人になって早い時期に投資を成功させて、寧ろ裕福なくらいです。
それでも仕事はやめられずにいました。何故でしょう、暇になるのが怖いからですかね。
そう言えば、私には嫁と、娘が二人いるのですが、娘の姉の方も、以前そんなことを言ってました。遺伝ですかねぇ……私みたいな大人にはなってほしくないです。
話を戻しましょう。
私は休日に、どうしても暇に耐えられずFLOをプレイしてみました。
すると昔のことを思い出し、なんとも楽しくなってきたのです。
そこで私はゲームをもっと楽しみたいので、子供に内緒で会社を辞めてしまいました。あはは、決断力だけは自慢出来ます。
ですが、妻には話してあるのでご安心を。離婚は避けたいものですから。
意外にも反対はされませんでしたけど。まぁ、このまま投資を続ければ、一生は生きていけるでしょうし、当然の反応でしたでしょう。寧ろ、私が会社を辞めてしまう程に熱中できるものを見つけたことに、大喜びでした。
そして時は1ヶ月程流れ、FLO初のイベントが開催されることになりました。なんとも嬉しかったです。
好きなゲームのイベントで喜々とするのは子供でしょうか。いえ、それならば子供でありたいとさえ思えます。
待ちに待ったイベント。勿論参加しました。結果は……37位と、まぁ、来年で37のおじさんの結果にしては好成績ではありませんか。
いえ、正直に言ってしまえば、自身の記録に歓喜などできませんでした。ですがそれは、結果が低いからではありません。
あるプレイヤーが気になってしまったのです。
おっと、言い方が良くないですね。誤解しないでください。私は妻一筋ですので。
素晴らしい実力に見とれてしまったのです。あぁ、これも
そう、ゲームプレイヤーとして、彼女の強さに憧れたのですよ。これでもう大丈夫ですかね。
そのプレイヤーこそ、今慕っている、ツユ様です。
ハハ、彼女に出会い、私はおかしくなりました。当然、ゲームの中でだけですけが。
なのでFLOでの私は、完全なる異常者へと変装することに決めました。我ながら馬鹿らしいとは思いましたが、それに付いて来てくれる人たちも、割と多く居たのです。本当、驚きです。
ツユ様のファンクラブを創り、ギルドを創り、それはもう楽しかったです。これが趣味なのだと感じられ、多少異常だとしてもそれが楽しく、嬉しかった。それだけで満足です。
ドはまりし過ぎて、夜遅くまでプレイして子供に顔を合わせられていないのは親失格ですが、ゲームの方が落ち着けば、会社を辞めたことを打ち明けようとは思っています。ゲームのことは……多分内緒にしますが。
しかしツユ様慕ったその結果、この状況、戦争にまで発展してしまった。それはツユ様に対して申し訳ないことです。が、後悔はしていません。
ツユ様はカジノで好成績をお出しになされた。それをあろうことか相手は、侮辱したのです。到底許されることではありません。神の裁きを。
なのでこの戦い、私たちが勝たせてもらいます、そう意気込みはしたものの、互いの軍勢には1万5千もの差。これでは敗北し、ツユ様に泥を塗るも同然。
戦争が開始して2時間。
相手は3万から1万5千程に、私たちは1万5千から5千に。
頑張った方ではありませんか。仲間同士でそう称えながらも、まだ諦められなかった時、一瞬の間、影が通った気がしたのです。
何かと、空を見上げれば天使が、いえ、五体の竜が、降ってきたのです。
竜たちは太陽を背に、徐々に地へと近付き、やがて相手軍勢の密集した真上までいくと、地へと降り立つ直前、一人の竜が叫んだのを、確かにこの耳で聞いたのです。
「『エクスプロージョン』!」
直後、大爆発。遅れて爆音が耳を貫きますが、私はどうしても、私たちはどうしても、その耳を塞ごうとはしませんでした。
目をかっぴらき、映した光景はまさしく戦争。されど美しい。
私は色々な爆破攻撃、自爆攻撃を見たことがありますが、これほどまでの威力と範囲の大きい『エクスプロージョン』は初めてでした。
しかも、爆発の後に残るのは、五体の竜だけ。
『エクスプロージョン』とは確か、自爆攻撃だったはず。それを半径100メートルはありそうな範囲で放ち、自分たちは不死身。
不死身。それはまさしく私たちが慕う者。ツユ様だったのです。
次の瞬間、私は叫びました。
「ツユ様だー!」と、誰が見ても一目でわかるこの光景を叫びに変えたのです。
それを聞いた同志たちは、一斉に歓喜の雄叫びをし初めました。
そして、戦いの幕が、今、やっと上がったのだと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます