034.変身ベルト!?

 冒険者ギルドの中に有るレストラン。


 「お~、ようやく戻ったか。心配しておったのじゃぞ」


 大きな銅鑼声で話す鍛冶師のバイトスさんだ。


 「あっ、すみません。鎧を取りに行けなくて……」


 僕はバイトスさんに鎧のサイズ調整をお願いしていたのだけれど、オークの討伐があって取りにいけていなかった。

 勿論、忘れてなかったよ?


 「なんの。それよりも聞いたぞい。オークの群れを倒したそうじゃな。鎧も付けずに無茶しおって……」


 あれ?泣いてるのかな?

 毛深いバイトスさんのつぶらな瞳に光る物が。


 「すみません。心配までおかけして……」


 言われてみれば、本当に無茶をしたと思う。

 僕は大魔法を放っただけだけれど、初めての冒険でオークの群れと戦うのは本当に無謀な事だ。

 しかもその時の僕は、レベルが1しかなかったのだから。


 「無事に戻ってくればよいのじゃ。ほれ、鎧はこの中に入っておる」


 バイトスさんがテーブルの上に置いたのは、大きなバックルが付いている皮ベルトだった。


 「えっ、もしかして……」

 「そうじゃ。魔法のカバンに成っておる。まずは腰に巻いてみ~」


 僕は言われるがまま、腰にベルトを着けた。

 ずっしりとしていて、とても頑丈そうだ。


 「あっ、丁度いいです」


 どうやら僕の腰回りに合わせて、長さを調整してくれたみたい。


 「ふふん。あとはバックルを開けば、取り出せるのじゃが、そこのボタンを押してみろ」

 「は、はい」


 僕は金色のバックルに付いている赤いボタンを押してみた。


 ピカン!


 「うっわぁ……」


 フラッシュのような光で、目が見えなくなってしまった。

 でも僕にだけは分かる。


 ずっしりとした、体を覆う冷たい感触が。


 「ルキ様、素敵ですわ~~」

 「そうね。うん。明日、マントを買ってあげるわね」

 「お兄ちゃん。格好いいでしゅ~」

 「一瞬で装備が……」

 「まるで変身ヒーローですね……」


 そう、美月さんが最後に呟いた言葉が、一番言い当てている。


 なんとボタンを押しただけで、僕は鎧を着る事が出来たのだ。

 しかも目くらましのフラッシュ付きで。


 今の僕は、全身を銀色の鎧で覆われている。

 しかも兜まで被って。


 まだご飯の途中なのだけれどね。


 「凄い……ありがとうございます。バイトスさん」

 「ほっほっほ。なんのなんの。儂が使ってたものじゃから、気にせず使ってくれ」


 「あれ?この盾は?」


 鉄製の鎧とも違った、白っぽい銀色をした盾を左手に持っている。

 厚みはあまりないのだけれど、結構な大きさがあるカイトシールドだ。

 それにとても軽い。


 「気が付いたようじゃの。それはミスリルで出来た盾じゃ。冒険で見つけた儂のコレクションじゃよ。お主には大きすぎるかもしれんが、まぁ軽いから何とかなるうじゃろ~て」


 本来はミドルシールドに分類される物だろうけど、背が低い僕が身に着けるとラージシールドに見えてしまう。


 「何から何まで、本当にありがとうございます。あっ、少しだったら」


 僕は持ち金の半分をテーブルに置いた。


 「ふん、いらんよ。お主らカルムの村を救ってくれたのじゃろ?あそこの村長とは飲み仲間での~。その礼じゃよ」

 「それでしたら、お酒をご馳走しますよ」


 「ふぉふぉ、それはいい。お主らの無事を祝って乾杯しよ~」

 「そうですわね。サクラ。お酒を」

 「ええ、また飲まれるのですか……」

 「はははは、ほどほどにお願いしますね。姫様……」


 そしてまた宴会が始まった。


 「おお、そうじゃった。ルキ坊、その鎧は二の腕と腿のパーツを外せるようにしておいたでの~、外で活動するときは外すといい」

 「そんなところまで手直しをして貰えたんですね。大事に使います」


 お酒が入ったバルトスさんは、とても上機嫌。

 よく見ればわかるのだけれど、固定用のベルトの長さ調整だけでなく、鎧を打ち直して僕のサイズに合わせて作り直してくれている。


 きっと僕の為に徹夜で鎧のサイズを治してくれたのだと思う。

 だからもう、ベルトン先生は着る事は出来ない。


 僕専用の鎧……

 あっ中学校の制服はどうなっちゃうのだろう……まだ着てないのに……


 「そうじゃぞ。鎧はお主の命を守る物じゃからな大事にせい!ただーーし!鎧の為に命を捨ててはならぬからな!!よいか~命は大切にするのじゃぞ~~うっううぅ……」

 「え、ええ~~バルトスさん、ちょっと~……」


 今度は突然、泣き出しちゃった。

 しかも僕の鎧で涙と鼻水を拭いているよ~


 分ってはいたけれど、バルトスさんも本当にいい人だった。


 酔っぱらったのもあるけれど、本当に僕たちの事を心配してくれていたみたいだ。

 もしかしたら、冒険者ギルドに何度も様子を見に来てくれていたのかもしれない。


 そう言えば、この魔法のベルトなのだけれど、脱ぐのは自動じゃないんだよね……

 一瞬で装備出来るだけで凄いのだけど、ちょっと残念だったりする。


 それにしても、この魔道具を作った人は、変身ヒーローの事を知っていたのかな~。


 「ルキフェル君~♪」

 「あっ、メルさん」


 今度はメルさんが、上機嫌でやって来た。

 まさかお酒を飲んでいないよね?


 勿論、僕もオレンジジュースのような物を飲んでいる。

 ちょっと濃いけれど、甘酸っぱくてとっても美味しい。


 「はい。これっ!」

 「えっ……」


 メルさんが僕の頭から、ネックレスを掛けてくれた。

 目の前にある膨らみに、ちっぴりドキッとする。


 「おお、これは黒曜石ではないか~!」


 酔っぱらったバルトスさんが、ネックレスに付いている、滑らかな表面をした黒い石を手に取って見ている。

 阻害のネックレスに付いている黒い宝石よりも大きい。


 「もしかして、これって……」

 「ふふふ、おめでとうございます。皆さんは今日から黒曜石クラスです」


 「やった~」

 「ふっ、これであのベランダとかいう女と同じね」


 アメリアさんが嬉しそうに新しい冒険者証を首から下げている。

 どうやらあの先輩たちの事を、まだ怒っているみたい。

 次に会った時に喧嘩をしないといのだけれど……


 そして一人だけ冒険者ではない、セレーネーこと美月さんだけれど……


 「はい。セレーネーさん。仮手続きは済ませてあるから、明日でいいからカウンターに来てね」

 「えっ、私も黒曜石ですか……」


 なんと美月さんまで冒険者になちゃった。

 しかもいきなり黒曜石クラスだよ。


 実は彼女を冒険者に誘おうか迷ってたのだけれど、メルさんのおかげで成って貰えたみたい。


 「ふふふ、それじゃ~初仕事の成功と、新しいメンバーに乾杯しましょ。ルキ君」

 「えっ、僕がですか……」


 マリア王女の無茶ぶりは何時もの事だけれど……でも不思議と断れないんだよね。


 <特殊効果、王女の命令プリセス・オーダーの効果が付与されました>


 (えっ、そういう事?!)


 僕はジュースが注がれたジョッキを持って立ち上がった。

 みんなの視線を感じて、心臓がドキドキ、バクバクする。

 きっと顔が真っ赤になっていると思う。


 (あっ、美月さん……)


 ずっと憧れていた彼女と目が合った。

 黒曜石のような澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。


 そして、小さく頷いてくれた。


 (うん、彼女の為にも、僕は頑張らないと)


 僕は思いっきり息を吸い込んだ。

 そして……


 「えぇぇ~っと、セレーネーさんと”運命の導き”にカンパーーーイ!!」

 「「「「「「「「カンパーーーーイ」」」」」」」」


 (え、ええええ!!!)


 仲間だけじゃなくて、他の冒険者の人たちまでが乾杯してくれた。

 大きな声に耳がジンジンする。


 みんな怖そうな顔をしているのに、今は笑ってくれている。

 もっと荒くれ者の集まりだと思っていたのだけれど、どうやら違ったみたい。


 「これでルキフェル君達も、立派に冒険者の仲間入りですね」


 メルさんの言う通りだった。

 お酒臭いオジサンが次から次へと来て、僕達に声をかけてくれる。


 「よくやってくれた……。あの村には俺のオカンとオトンが住んでるんだよ。何かあったら言ってくれ」


 瑠璃ラピスラズリクラスのお兄さんにまで、泣いて感謝されてしまった。


 「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 どうやら冒険者という職業は、人の為にもなる仕事みたい。

 そんな僕たちの様子を見て、美月さんも微笑んでくれている。

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