第87話

フィリア視点


『不滅の魔王の妹との絆を深めなさい。』

 メルマ様から神託を何度も受けた。

最初はうれしかったけど、今ではしつこくて嫌になっている。


正直にいって、私とクロスはとても仲が良いと思う。

ちょっとした爆発に驚いて私にしがみつき離れないクロスは私にとってもちょっとかわいい妹のような感じだから。


『ハルオとクロスの仲がうまくいくようにしてあげなさい』

 この神託はだめ。

かわいい妹のようなクロスとあんな男の間を取り持てなんて「ふざけるな!」と怒鳴りたいくらい。


乙女の貞操を守る下着をはいてから、変な暗示が解けたみたいで私にとってハルオの事もはどうでもよい、いや不快な男性となった。


そもそも浮気者は嫌い。


私には婚約者がいた。

私は『真実の愛』という小説にはまっていて、一人の相手を深く愛しぬく生き方にあこがれていた。

だから婚約者と初めて会ったときは、わたしはたとえ王家との政略結婚でも彼だけを愛し、そして尽くそう誓った。


でもあいつは他の女に浮気した。

なんとか相手の女性に身を引いてくれるようにお願いすると浮気相手は素直に私に謝り身を引くと約束した。

でもあの女は約束なんて無かったかのように平気で彼に会い、仲良く二人で過ごしていた。


あの女は他人の婚約者を平気で誘惑し約束も守らない。


大事にしたくはなかったけど両親に相談して、家と家との話し合いに持ち込んでもらおうと思ったけどだめだった・・・


たとえ政略結婚であったとしても誠実に私だけを見て、私だけを愛して欲しかっただけなのに、それは傲慢な考えだといわれた。


偉大なる勇者の中の勇者と称される隣国のリーマン伯爵家の当主は夫人が30人もいるそうだ。

高位の貴族では妻が一人というのはあり得ない。

私だけを愛して欲しいなどという考えは低俗な小説の読みすぎだと断じられた・・・


でも、嫌なものは嫌。

話し合いでだめなら、もう実力行使しかない。

だからあの女を徹底的に攻撃した。


そして侍女が暗殺者ギルドを紹介してくれたので、そこまではやる気はなかったけど一応、会って話だけは聞いた。

これがまずかった、いや嵌められた・・・


浮気相手は婚約者に生命を狙われたと訴えたみたい。


王家主催のパーティのさなか、彼は婚約破棄を告げ、暗殺を謀ったと私を断罪した。

そして私の前で『真実の愛』に目覚めたといい、これからはあの女だけを愛すると宣言した。


気が狂いそうになった・・・


両親にはかなり迷惑かけてしまった。

私の処刑を命じる王家に対して多額の詫び金を支払い、なんとか修道院送りで納得しもらったそうだ。


 最後に修道院に送られる時、父に「除籍の手続きは済んだ。お前とはもう二度と会うことはない、もしあったとして他人だ」言われた。


でも、これから両親と会う。


聖皇国の半分を支配している吸血淫魔王というすごい二つ名をもつ美人の魔王が私の両親と兄弟達を確保しているらしい。

私がおとなしくしていれば、危害を加えないと言ったが、少し話してわかった。


この魔王はとてもおせっかいで優しくて面倒見がいい。


なんとなく、私と両親を和解させようとしているような気がする。

でも両親は私が修道院を抜け出して、国を追放されるような男性に付いていったことは知っているだろう。


本気で会いたくない。


●〇◆◇●〇◆◇●〇◆◇


「貴様は魔王ともつるんでいたのか!!!

 この汚らわしい売女がぁ!!!!!」


 やっぱり、嫌な予感があたった。

遠見の鏡で映る父は顔を真っ赤にして怒り心頭だった。

母は「産むんじゃなかった」と横で泣いている・・・


会って数秒で逃げ出したくなった。


「あ、あのですね、フィリアさんはまごうことなき処女ですよ!

 吸血鬼の私が保証します!!!」


あの、そうじゃなくて、私が魔王とつながっていないという言ってほしいのですが・・・


「貴様は聖皇国に復讐できてさぞ満足だろうな!!

 だが裏切り者の貴様には必ず神罰が下る!!

 覚悟しておけ!!!」


うっとおしいくらい神託うけて、それなりに貢献して成果はだしてるのだけど?


「え、えっとですね。

 血のつながった親子ですし、もっと愛情をもって接してあげないとだめじゃないかなっと思うんですが・・・」


吸血淫魔王さんが必死に両親をなだめているけど、父は無視して私を罵倒し続けてる。

遠見の鏡に映っている吸血鬼っぽい女性の父を見る目に籠る殺気が今にも父を襲いそうでとても恐ろしい・・・


「お父様、落ち着て・・・」


「わしの事を父と呼ぶな!!!

 貴様とは親子の縁を切っておるわぁ!!!」


 父の身を案じて落ち着くように言ったのだけど、余計に怒らせてしまった。


父の後ろの女性吸血鬼が目で殺っていいかと訴えていて、吸血淫魔王さんが身振り手振りでだめだと伝えている。


「貴様を捨てて婚約を破棄したあのガキは正しかったな!!

 それにあの女との子供が生まれるそうだ!!

 幸せそうで何よりだ!!!

 それに比べてお前は・・・お前は必ず地獄に落ちるぞ!!!」


「地獄に落ちる・・・?

 私が?

 私を嵌めて捨てたあの連中が正しいの?」


私はいったい今何をしているの・・・

どうして私は両親に罵倒されているの・・・

あの男と女は子供を授かり幸せな暮らしている・・・

私は今とても不幸なのに、どうしてあんな奴らが幸せを手にしてるの・・・


久しぶりに頬をつたうものを感じる


「血涙・・・

 きゃあああああ、すっごいおいっしいいいい!」


吸血淫魔王さんが私の頬をつたうものをなめると、身悶えしながら奇声をあげた。


『ガシャーン』


私の中でなにか壊れたような気がする。


「えええええ!

 ちょっと、何割っちゃってるの!

 この遠見の鏡ってすっごいレアで手に入りにくいのよぉおおお!!」


あの男は聖皇国に復讐できてさぞ満足だろうなと私に言った。

復讐をすれば満足できるというならよい考えだと思う。


私の今までの人生は理不尽で不満しかなかったのだから。


「ミリア様!

 お願いがあります!!」


「は、はいぃ!!!」


まずは力を手に入れよう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る