白雪姫の母親登場
「お客様、おかえりなさいませ」
旅館に着くと、入口で着物を着た長い銀髪を後頭部でお団子状にした仲居さんが出迎えてくれた。
サラサラな髪を下ろしたら目に付きそうだし、異国情緒溢れる容姿なのに日本語が上手い。
「お母さん」
「……え?」
銀髪の仲居さんを見た姫乃がそう言ったため、隆史は驚かずにいられなかった。
「姫乃の、お母さん?」
「はい。箱根の旅館で住み込みで働いてます。昨日は休みだったようですが」
よくよく仲居さんを見ると凄く似ており、まるで姫乃を大人にしたかのようだ。
さらには見た目が高校生の子供がいるようには見えなく、二十代後半でも全然通用するだろう。
「あなたが姫乃のお付き合いしている隆史くん?」
「え? はい」
付き合い始めたのは昨日のことだが、既に姫乃は母親に言ったようだ。
「私は姫乃の母親の白雪ソフィアといいます」
仲居さんは正座で深いお辞儀をして名乗ってくれた。
この人が姫乃の母親で、ひなたが言っている女狐ということだ。
実際にソフィアが姫乃やひなたの父親を誘惑したかは分からないが、大人の色気を醸し出しているから誘われたら大抵の男はすぐ墜ちるだろう。
むしろ男の方から誘うかもしれない。
「姫乃のことをとても大事にしているようで、ありがとうございます」
「まあ、俺の彼女ですから」
「あ……」
手を繋ぐのを止めてから肩を抱いて引き寄せる。
付き合いだして二日目で母親に会うなんて予想外だったが、ここは恥ずかしがらないできちんとしなけれなならない。
恐らく姫乃はこの旅館にソフィアが働いているのを知っていたはずだ。
でも、言わなかったのは、もしかしたら断られると思ったからかもしれない。
一度来て旅館でバレても帰るわけにはいかないので、旅館で会うタイミングで話そうとしたのだろう。
「会うのは春休み以来でしょ? 話しなよ」
隆史とはいつでも話すことが出来るし、今しか話せないソフィアと話すべきだ。
それに今日を逃したら次に会えるのは夏休みになるため、今は母親との会話を優先させてあげる。
「お母さん、会いたかった」
「私もよ」
旅館の入口だというのに二人は抱き合った。
この光景を見たら親娘の感動の再会だろう。
ただ、隆史は家族なのに一緒に住まわすのを許可しない父親に怒りを覚えた。
まだ会ったことすらないが、結婚していない女性との間に子供がいるのを隠そうと住むのを許可しないからだ。
もしかしたらソフィアに中絶するように言ったのかもしれない。
でも、それだけは断固拒否したのだろう。
ただ、姫乃が一人暮らしをしているからこそ出会えたのは事実なので、会えたら怒りをぶつけるか少し難しいところだ。
姫乃が母親と一緒に住んでたら出会うことすらなかっただろう。
お互いに涙を流して抱き合っているところを見ると、やはり一緒に暮らしたい気持ちはあるようだ。
血の繋がった家族なのだし、一緒に暮らしたいと思うのは当たり前だろう。
隆史だって長く会っていない両親に顔を見せたい気持ちがある。
「お母さん……」
全く会えないわけではないにしろ久しぶりの再会だからか、姫乃は語彙力がなくなっているらしい。
中々会えないのだし分からなくもないが、若干ながら嫉妬してしまう。
親に対する愛情と異性に対する愛情が違うのは当たり前ではあるものの、自分にもさらなる愛情を向けてほしいと思った。
独占欲が出てしまっているのかもしれない。
ただ、福引きで旅行が当たってこの旅館に来たのには運命を感じさせる。
付き合うことになって姫乃の母親に会うことが出来たのだから。
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