駄目人間にさせる選択肢
「お腹いっぱいだ……」
箱根名物の食べ物を食べ歩きした結果、隆史のお腹は今までにないくらいにパンパンになっていた。
まるで自分が漫画のキャラみたいだ。
普段より沢山食べてお金がかかってしまったが、せっかくの旅行だから使うものだろう。
むしろ旅行に来てお金を使わない人はほとんどいないはずだ。
旅行が終わったら少しばかり節約しないといけないものの、一切の後悔はない。
沢山イチャイチャしたいので、これからはお家デートを愉しめばいいのだから。
でも、食べ過ぎて歩くのはしんどいため、外にあるベンチに座って二人して休む。
「美味しそうに食べてるタカくん可愛いです」
付き合い始めてからさらにストレートに自分の想いを伝えてきている気がする。
「家に帰ったら私がいっぱい作ってあげますから食べてくださいね」
「太らない程度に頼む」
太る体質ではないにしろ、運動自体あまりしないから食べ過ぎるのはよろしくない。
ただ、姫乃の料理は美味しいため、食べすぎる未来が見えた。
「どんなにタカくんが太ったとしても、私は離れる気はありませんよ」
「太らす気満々?」
別にモテたいとか思っていないが、太りたいとも考えていない。
誰が好き好んで太りたいと思う人は中々いないだろう。
「でも、太ると生活習慣病になりやすいみたいですし、ほどほどにしないといけませんね」
どうやら太らせたいと思っていないらしく、ホッと一安心した。
太ったら生活習慣病だけでなく、服のサイズが変わったりするし、何より汗もかきやすくなって不快だ。
「美味しく食べてもらいたいのは本当なので、タカくんが望むならいくらでも作りますからね」
ここ最近感じていたが、姫乃は好きな人に尽くすタイプらしい。
麻里佳も姉として尽くしてくれたから嫌ではないものの、尽くしすぎて自分の考えがなくなるのはよろしくないだろう。
彼氏のためにある程度尽くすのは問題ないが、何でも彼氏のためにするのは問題がある。
だから姫乃にはきちんと自分の想いを持ってほしい。
「どうしました?」
考え事をしているのが分かったのか、姫乃がこちらを見つめてきた。
「いや、何でもないよ」
付き合いだした今は何も言わないのがいいだろう。
尽くしてもらうのは好きだし、少し問題が出たら言えばいい。
それに付き合いだしたばかりというのもあるかもしれないが、姫乃の一つ一つの言動でさらに好きになっていく。
なので尽くしたくなるのは自分の方かもしれない、と隆史は心の中で思った。
「何かあったら言ってくださいね。タカくんのためにする労力は惜しみませんから」
姫乃が尽くすタイプであるのが確定した瞬間だ。
コテン、と頭を肩に乗せてきた姫乃は、何があっても離れたいと思わないだろう。
それはこちらとしても同じなので、これから何が起きようとも離れることはない。
旅行が終わったらひなたが何かしでかすだろうが、絶対に姫乃の側にいる。
姫乃に対して直接嫌がらせをしないと宣言はしてくれているし、イチャイチャしまくってたらその内諦めるだろう。
自分が狙っている異性が他の人とイチャイチャしてくるのを見るのは嫌なはずだから。
「少し前までは駄目人間になりそうとか言ってたのに?」
「タカくんのことばかり考えてタカくんのために動いてしまうから駄目人間になってしまいます」
確かにそうかもしれない。
好きな人に尽くすのは駄目人間になりかねないのは、ラノベを読んだ時に分かった。
ただ、好きな人に尽くすのは悪くはない。
度が過ぎると駄目になってしまう可能性があるだけで、節度さえ保てば問題ないだろう。
でも、隆史自身は姫乃が駄目人間になるとは思っていない。
何故なら姫乃は自分の想いをちゃんと告げてくれるからだ。
最近は初めてを捧げたいと思っているからか暴走気味ではあるが。
「もし、私が駄目人間になっても一緒にいてくれますか?」
「もちろん」
肩を抱きながら答える。
もし尽くし過ぎて姫乃が駄目人間になったとしても、隆史は彼女から離れるつもりは一切ない。
もちろん駄目人間にさせるつもりはないが、どんな姫乃であっても好きでいられる自信はある。
それに姫乃は駄目人間になったとしても、彼氏のためなら努力は惜しまないだろう。
好きな人に喜んでもらいたい、そんな想いから駄目になってしまうようだから。
「ならずっと一緒ですね」
えへへ、と笑みを浮かべた姫乃が可愛すぎる。
あえて駄目にさせて一緒にいるという選択肢も出てきたくらいだ。
笑顔を見たくらいでこうも自分の考えが変わるなんてチョロいかもしれない。
「タカくんに触れてないと落ち着かないので嬉しいです」
もう駄目人間になりかけているようだった。
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