白雪姫の秘密

「知らない番号から電話だ」


 自室のベッドで横になりながらのんびりとしていると、知らない番号から電話がかかってきた。


「もしもし?」


 出るかどうか迷ったが、とりあえず電話に出る。


『お兄さん、私が誰だか分かりますか?』

「げ……雪下ひなた?」

『げって失礼ですね。まあ名前を覚えていたので良しとしましょう』


 何が良しなんだ? も思いながらも、隆史は面倒くさくてため息をつく。


 もうお風呂に入って後は寝るだけなのに、ひなたの長電話に付き合わされそうで面倒だからだ。


「何で俺の番号知ってるの?」


 少なくとも教えた記憶はない。


『美希ちゃんに聞いたからに決まってるじゃないですか』


 あの野郎、勝手に教えやがって……と心に思いながらも口にはしない。


『私の番号を知っている男子はあんまりいないので良かったですね』

「ふーん」


 とりあえず適当に返答しておく。


『興味なさげですね』

「ないよ」


 上っ面だけの人に興味を持てるわけがなく、適当に返答するしか出来ない。


 あくまで隆史の想像だけであるが、どうもひなたとはあまり関わりたくないのだ。


 男のカンが雪下ひなたと関わるのは危険、と言っている。


『まあ、いいです。それより前に言ってた銀髪美少女って白雪姫乃ですか?』

「え?」


 好きな人の名前を言われてドキっと心臓の鼓動が早くなった。


 何で知っているのだろう? と思うと同時に、好きな人の名前が出たら少し緊張する。


『白雪姫乃ですよね? この辺で銀髪美少女といったらあの人くらいでしょうし』


 確信を持っているかのような言い方だった。


『何で知ってるの? て思ってますよね』

「まあ……」


 違う学校だとしても知り合いなことはあるから不思議ではないのだが、何故か不敵な笑みを浮かべているひなたが目に浮かぶ。


『だって私と白雪姫乃は……一応姉妹ですからね』

「兄妹?」


 衝撃的な一言により、隆史の心臓はさらに鼓動を早くする。


 一瞬だけ雰囲気が似てるとは感じたが、名字が違うから姉妹だとは思ってもいなかった。


『そーですよ。ちなみに腹違いなんで、あの人は妾の子ってやつですよ』


 あの人とは姫乃のことだろう。


 しかも妾の子ということは、姫乃の母親は結婚していないということだ。


 先程から姫乃のことを『お姉ちゃん』と言っていない辺り、妾の子と関係があるのかもしれない。


 もしかしてじゃなくて、ひなたは完全に姫乃のことを良く思っていない。


「前に家族で旅行に行ったと聞いたけど……」


 チョコを食べさせてもらった時に確かに言っていた。


 その後のことは記憶にないが、確かに家族旅行の記憶はある。


『あの女狐と行ったんでしょうね』

「女狐?」

『白雪姫乃の母親のことです。結婚が決まっている男を誘惑するビッチだから女狐です』


 姫乃と姫乃の母親を良く思っていないようで、ひなたの声が急に冷たくなった。


 やはり今の感じがひなたの本性なのだろう。


「姫乃と名字違うんだね」

『あの人は母方の姓を名乗ってるだけですから。結婚してなくて親権が母親にあればそうなりますよ。まあ養育費はお父さんが払っているみたいですけど』


 そりゃあそうだ、と思いながらも、隆史の頭の中はこんがらがっていた。


 学校一の美少女、白雪姫と言われる姫乃が実は妾の子だということに驚きすぎているからだ。


 電話越しでもひなたが嘘をついているわけではなさそうので、恐らくは本当なのだろう。


 母親と一緒に住んでいないのも、その辺りが関係しているのかもしれない。


「母親については知らないけど、少なくとも姫乃がビッチには思えない」


 あの恥ずかしがり屋っぷりを見ていれば、誰もが姫乃はビッチだと思わないと断言出来るほどだ。


『そうでしょうね。あの人凄く真面目ですから』


 真面目なのは見ていて分かる。


「それで何で俺にそんなこと話したの?」


 いちいち美希から電話番号を聞いて電話してきたということは、何か言いたいことがあるのだろう。


『妾の子と付き合うのって大変かもしれないですよ?』


 確かにひなたの言葉を聞くと、姫乃は父親と関わりがほぼないと思われる。


 養育費は払っていてもそれは恐らく成人したらなくなるだろう。


「だから?」

『私、お兄さんのこと気に入っちゃったんですよ。あの人と別れて……私といいことしませんか?』


 先程の冷たい声ではなく、甘い男心をくすぐるかのような猫撫声になった。


「まだ全然話したことないのに」

『お兄さんなら優しくしてくれそうって直感ですね。私はまだ経験ないので、お兄さんがしてくれたら初めてになりますよ。そして……最後の相手にもなりたいです』


 即堕ちしてもおかしくないくらいの甘い声は、本当に男の本能を刺激する。


 もし、隆史に好きな人がいなかったのであれば、今のひなたの言葉に乗っていたかもしれない。


「いや、遠慮しとく」


 好きな人がいるのに他の女の子の誘いに乗るわけにはいかない。


 姫乃が妾の子だというのには驚いたが、正直その辺りはどうでも良かった。


『まあ、いきなりOKが出るとは思ってませんでしたけどね』

「そう……」


 好きな人がいるのに他の女の子の誘いをOKを出す男子がいれば、可愛ければ誰でもいいことになる。


『美希ちゃんからお兄さんの家を聞いたので、今度突撃しますね。いなかったらあの人といると判断してマンションに乗り込みます』


 どうしても姫乃から奪いたいらしい。


 妾の子で良く思っていないのであれば、そう思っても不思議ではないだろう。


 もしかしたらひなたは姫乃が一人暮らしをしているマンションの家の合鍵を持っているかもしれない。


 チェーンロックをかけて侵入を拒否したいが、それをしたら良くないことが起きる可能性だってある。


 まず間違いなくひなたはそう簡単に諦めてくれなそうなのだから。


『あっ、あの人に何かしたらお兄さんが怒りそうなので、何もしませんから安心してください。ただ、あの人の前でお兄さんにくっついて嫉妬はさせますけどね』

「そう……」


 嫉妬するのかな? と思いつつも、隆史は頷くだけしか出来なかった。


 美少女とイチャイチャ出来るとは男にとって嬉しいはずなのだが、ひなたとイチャイチャしてもあまり嬉しくなさそうだ。


 好きな人がいるからというのも大きいからだろう。


『ではでは、今度お会いしましょうね』


 ひなたからの電話が切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る