覚悟のファーストキス

「一緒に登校するのも慣れてきたかも。周りから何か言われなくなってきたし」

「そうですね」


 朝ご飯を食べ終わった後、隆史は姫乃と一緒に登校していた。


 手を繋ぎながらの登校も慣れてきて、周りからも何か言われることは少なくなった。


 いくら学校一の美少女が男とイチャイチャしていたと言っても、毎日のようにしていたら周りも慣れてくるのだろう。


 もちろんまだ嫉妬の視線は向けられるが、気になるものではない。


「つまり完全に周りは私たちをバカップルだと思っている。はう……」


 ボソっと小声で何か呟いた姫乃は、恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めた。


 真っ赤にしている姫乃は本当に可愛いな、と思いつつ、彼女から視線を逸らすことが出来ない。


 誰もが好きな人を見ていたいと思うだろう。


「でも、いつかは本当のバカップルに……」


 上手く聞き取れなかったが、何か意気込みを感じさせる声だった。


 ギュっと強く手を握られた、というのも意気込みを感じさせたのかもしれない。


 何を意気込んだか分からないが、これからすることに何か覚悟を決めたようだ。


「タカくん」

「ん?」


 歩いていた姫乃の足が止まる。


「どう、したの?」


 同じく足を止めた隆史が恐る恐る聞く。


 もう虐められなくなったのだし、学校以外で一緒にいるのは止めよう、という提案なのかもしれない、と思って怖くなった。


 学校では一緒にいるのは必要だろうが、虐められなくなったら他で一緒にいる必要がない。


 一緒にいる時間が減るとアタックする時間が減るから嫌だ。


 なるべく一緒にいて好きになってもらいたいのたから。


 好きな人と一緒にいたいという気持ちは誰にでもあるだろう。


「タカくんは私と一緒に入れて、楽しいですか?」

「急にどうしたの?」

「いいから答えてください。楽しいですか?」


 青い瞳はしっかりとこちらを向いており、真剣に聞いているかのような声だった。


「楽しいよ」


 一緒にいれて楽しいのは当たり前だし、まだまだ一緒にいたい。


 そもそも幸せだから一緒にいるのだ。


「そうですか。なら良かったです」


 えへへ、と笑みを浮かべているため、どうやら一緒にいることの解消ではないようだ。


 安心してホッと胸を撫で下ろした隆史は、今の自分が情けないとも思う。


 がっつかないから安心して一緒にいれるのだろうが、あまりにもがっつきすぎないのもダメなのかもしれない。


 これから先に進むためには覚悟が必要だろう。


 今より濃厚なイチャイチャをするのは凄く恥ずかしいが、告白出来ないなら行動で示すしかない。


 好きだと分かってもらうには何かこちらからしなければならないのだ。


 多少イチャイチャしたところで好意には気付いてもらえないだろう。


 白雪姫と呼ばれるほどに美少女である姫乃が好きになってくれる可能性は低いかもしれないが、何もしないよりはマシだ。


 ある程度がっついてでもアタックしにいくべきだろう。


 ただ、普段からイチャイチャしているからどうがっついていいか分からない。


 流石に付き合っていないから抱くわけにはいかないし、隆史自身恥ずかしすぎて無理だ。


 きちんと付き合ってからじゃないと出来る自信がない。


(キスすれば気付いてもらえるだろうか?)


 好意に気付いてもらえる方法を一つだけ思い付いたが、唇と唇が触れ合うキスは許してくれないだろう。


 信頼の証に頬にキスはされたものの、マウストゥマウスはまた別だ。


 しかも姫乃はまだ経験がないため、本当に好きな人じゃないとしてくれないだろう。


 でも、ここでキス出来たら姫乃の気持ちが分かるかもしれない。


「どう、しました?」


 考え事をしてた隆史を不思議に思ったのか、姫乃がこちらを見てくる。


「な、何でもないよ」


 キスについて考えていたなんて言えるわけもなく誤魔化すも、つい桜色の唇を見てしまう。


 頬にキスをされた時に感じた熱くて柔らかい唇が目の前にあり、また感じてみたい。


 もちろん恥ずかしい気持ちはあるが、本能が目の前にある唇を求めてしまっているのだ。


「姫乃」

「はい」


 キスをしたい、好意に気付いてほしいと思った隆史は、姫乃の肩に手を置いて顔をゆっくりと近づけていく。


 これは嫌われる可能性があるかもしれないが、覚悟を示すためのものだ。


「え? タカくん?」


 視線が泳いでテンパっているようだが、決して逃げようとしない。


 おでこや頬ではなくて唇に近づけているから、恐らくは唇にキスをされると頭では分かっているだろう。


「んん……」


 登校中で人前だというのにも関わらず、ついに唇と唇が触れ合うキスをしてしまった。


 テンパって視線が泳いでいた青い瞳は瞼によって閉じられ、拒否されることはなかったらしい。


 熱くて柔らかい唇は頬にキスされた時より感じられる。


(キスってこんなにもいいものなのか)


 軽く触れ合うくらいのキスだが、病みつきになってしまいそうだった。


「私のファーストキス……」


 唇を離すと、姫乃は優しく自分の唇に指を当てた。


 嫌がっているような顔はしておらず、むしろキスの余韻を味わっているような感じだ。


「えっと……キスすればさらにバカップルだと思ってくれるから」


 ここで告白じゃなくてヘタれてしまった自分が情けない。


「いえ。私からしたいと思ってたのに……キス、されちゃいました」


 何か小声で呟いていたが聞き取れなかったものの、嫌われなかったから安心する。


「その、学校に行こうか」

「は、はい……」


 人前でキスをしたからか凄く見られながらも、手を繋ぎながら学校に向かった。

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