白雪姫と背中を洗いっこ
「ふう……お風呂は気持ちいい」
晩ご飯を食べた後は、隆史はお風呂に入っていた。
湯加減は丁度良く、一日の疲れが取れていくかのようだ。
一人用だから広くはないものの、やはりお風呂は気持ちいい。
のぼせなければ何時間でも入っていたいほどだ。
「お湯加減はいかがですか?」
ドア越しに姫乃の声が聞こえた。
曇りガラスに薄っすらと彼女のシルエットが写っており、何とも妖艶だ。
ラブコメアニメだったら何故かヒロインがお風呂に入ってくるシーンだが、流石に現実ではありえないだろう。
付き合ってもいないのだから。
「いい感じだよ」
姫乃の質問に答えた隆史は、気持ち良くて「ふう……」と息をはく。
「そうですか。……失礼、しますね」
「……は?」
ガチャァァ、とドアが開けられると、バスタオルで身体を巻いた姫乃が頬を真っ赤にして入ってきた。
まだ湯船にも浸かっていないはずの姫乃は、恥ずかしさからか身体全体が赤くなっているようにも見える。
「あの……あまり見られると、恥ずかしいです」
「ご、ごめん」
あまり見てしまうのは良くないので、隆史は姫乃から視線を逸らす。
以前に下着姿は見たことあるが、露出度の低いバスタオル姿の方が何故か刺激が強い。
湯船に浸かっているだけのせいではないくらいに身体が熱くなっていく。
「な、何でお風呂に……」
視線を外したまま質問をする。
「タカくんのお背中を、お流ししようと思いまして……寂しさをなくしてくれた、お礼です」
いくらお礼といえど、普通はお風呂で背中を流そうとしないだろう。
料理を作ってくれたり、一緒に遊んでくれるだけでも充分お礼になるし、そもそもこちらも慰めてもらっている身だ。
なので恥ずかしい想いをしてまでしてくれなくても問題はない。
「俺たちは付き合ってないんだよ? そこまでしなくても……」
「確かに付き合ってませんけど、物凄く恥ずかしいですけど……私は、タカくんだから……タカくんが相手だからしたいと思うんですよ」
そっと優しく隆史の肩に手を触れてきた姫乃は、本気で背中を流したいと思っているのだろう。
襲われることがないと分かっているからこそ、こうしてお風呂に入っていたようだ。
隆史に襲う度胸があったとしたら、姫乃は側にいることすらなかっただろう。
「ありがとう。なら、背中を流してもらうね」
手を重ねた隆史は、姫乃に背中を流してもらうことを決めた。
一緒にお風呂に入るなんて相当恥ずかしいことなのに入ってきたということは、相当覚悟のいることだっただろう。
襲われることがないと分かってはいても、男性経験ゼロの女の子が異性に肌を晒すのは恥ずかしいことなのだから。
「あの、これで前を隠してください」
「わ、分かったよ」
手に持っているバスタオルを渡された。
純潔の姫乃にお粗末な物を見せるわけにはいかないので、隆史は頷いて前をバスタオルで隠してから立つ。
バスタブから出た隆史は、姫乃に対して背を向けて座る。
女の子に背中を洗ってもらうなんて小学生の時に麻里佳にしてもらったきりなため、恥ずかしさで心臓が破裂しそうだ。
「失礼、しますね」
ボディーソープを手の平で泡立てた姫乃は、柔らかい手で隆史の背中を洗っていく。
「痒い所はないですか?」
「大丈夫、だよ。とても気持ちいい」
恥ずかしくてあまり声が出ないが、隆史はきちんと姫乃の質問に答える。
実際に洗ってもらって本当に気持ち良く、このまま永遠に洗ってほしいくらいだ。
「良かった、です」
んしょんしょ、と声を出しながら洗ってくれる姫乃は本当に可愛い、と思いながらも、隆史はしっかりと堪能した。
「あの……前は自分で洗ってくださいね。腕なら洗ってあげますけど」
「わ、分かった」
流石に前を洗ってもらったとしたら、バスタオルで隠しているとはいえ、何かの拍子でこんにちはしてしまう可能性があるため、こちらからご遠慮願いたい。
「腕、失礼、します」
左腕を姫乃が洗っている間に、隆史は右手を使って自分の身体を洗う。
☆ ☆ ☆
「ふう、スッキリした」
身体を洗い終えた隆史は、立ち上がって湯船に浸かろうとする。
「ま、待ってください」
だけど姫乃によって腕を掴まれて入ることが出来なくなった。
「あの……私の背中も洗って、くれませんか?」
「……はい?」
小声ではあったが聞こえなかったわけではなく、何でそんなことを言ったか分からないから聞き返したのだ。
男性の背中を洗うのと女性の背中を洗うのでは訳が違う。
「身体って手で洗うのが一番いいとされているじゃないですか?」
「そうだな」
確かに以前テレビでそんなことを言っていた。
「手だと背中はどうしても届かない部分がありますので、タカくんにお願いしたくて……」
手足をモジモジ、と上下に動かしているから恥ずかしいのだろうが、どうしても洗ってほしいようだ。
「わ、分かった」
背中を流してもらったのだし、姫乃が流してほしいと言っているのだから流すべきだろう。
「その、後ろを向いててください」
「う、うん」
身体を洗うとなるとバスタオルを外さないといけないため、姫乃の言う通りに後ろを向く。
静かな浴槽にバスタオルを外す音が微かに聞こえ、隆史は乾いた口の中に僅かにある唾を飲む。
「もう、いいですよ」
声に反応して後ろを向くと、背中を晒した姫乃が座っていた。
長い髪は前の方に持っていってるため、白くて綺麗な背中が丸見えだ。
恐らくは異性に見せたことすらない背中を目の当たりにして嬉しくなるが、今は姫乃の背中を流さなくてはならない。
「じゃあ、洗わせていただきまする」
変な語尾になってしまった隆史は、ボディーソープを手の平に馴染ませてゆっくりの姫乃の背中に近づける。
「んん……」
背中に手が触れた瞬間に甘い声を出す姫乃は、少し背中が敏感なのかもしれない。
普段背中を触られることなんて滅多にないわけだし、敏感でもおかしくないだろう。
「そういえば、姫乃ってロシアの血が混ざってるんだよね?」
背中を洗っている恥ずかしさを少しでも間際らすために聞く。
「はい。クォーターですね」
「ロシア語話せるの?」
「はい。昔は母とロシア語で話したりしてましたよ」
「聞いてみたい、かも」
ロシア語なんて全く分からないが、話している姫乃は見てみたい。
「分かりました。じゃあ……」
深呼吸をした姫乃が口を開く。
「я тебя люблю」
学校で習う英語だったらともかく、やはりロシア語は全く分からない。
「ちなみに意味は?」
「き、気にしないでください」
どうやら意味は教えてくれないようで、姫乃は恥ずかしいのか俯いてしまう。
「愛してるって言ったなんて言えないですよ……」
小声で呟いている姫乃を見た隆史は、今度ロシアに出張している両親に聞こうと思った。
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