完全なるバカップルと恋
「よっ、バカップル」
姫乃と手を繋ぎながら教室に入ると、クラスメイトからそんな声が飛んでくる。
毎日手を繋いで登校していれば、バカップルと思われても仕方ないだろう。
おかげで校内随一のバカップルと認定されてしまい、言われて恥ずかしい気持ちになる。
ただなるべく一緒にいるようにしているだけだが。
今、バカップルと言ってきた男子は彼女がいるようなので、そもそも姫乃にあまり興味がないようだ。
大切な人が既にいるのであれば、いくら目の前に美少女がいても見るだけで、好きになることはないだろう。
ただ、一部の……彼女がいない男子からは未だに嫉妬の視線を向けられる。
こればっかりはどうしようもないかもしれない。
彼女がいない男子は、女子と仲良くしている男を見ると羨ましく思うのだから。
「あう……」
クラスメイトにバカップルと言われたからか、姫乃は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
「あ……」
照れている姫乃はとても可愛くいつまでも見ていたい衝動にかられるが、他の人に見られたくないから彼女の顔を自分の胸に埋めさせる。
完全に独占欲が出てしまい、恥ずかしさを我慢してまでこうしてしまう。
もう虐められなくなったようなのでここまでする必要はないかもしれないが、本当に独占したくて仕方ない。
ただ、虐められなくなった姫乃からしたら、人前でくっつくのはどう思っているのか疑問だ。
今のところ全く抵抗してこないが、内心はもう終わりにしたいと思っている可能性はゼロではない。
虐められなくなってすぐにイチャイチャを止めたら、周りから怪しまれるだろうからしてくれているだけなのだろう。
あくまで共存関係だから好きになってはいけないのは分かっているが、最近は麻里佳より姫乃のことをいつも考えている。
一緒にいる時はもちろんのこと、家で一人でいる時も姫乃のことで頭がいっぱいだ。
この気持ちは間違いなく恋だろう。
でも、今告白したところでフラれるのがオチなため、勇気を全く出せないでいる。
そもそも麻里佳を好きになってから告白するまでにも数年の期間を要したのだし、すぐに気持ちを伝えられるわけがない
「甘い……ブラックコーヒーが必要だ」
何人かのクラスメイトが頷いて教室から出て行く。
後五分くらいで予鈴が鳴って朝のホームルームが始まるのだが、どうしてもコーヒーが飲みたくなったようだ。
「タカ、くん……」
「あ、ごめん」
少し苦しそうな声を出した姫乃の声に反応し、謝った隆史は抱きつく力を緩める。
独占したいという感情が先行し、強く抱きしめ過ぎてしまったようだ。
あまり強く抱きしめられるのは流石に嫌だろう。
「いえ、タカくんになら、いいです」
特別感を持たせる言葉は好きだと勘違いしそうになるから止めて欲しい。
信用しているようだから少しくらいは特別感はあるかもしれないが、そんなことを言われるとさらに好きになってしまうだけだ。
本当だったらこれ以上好きになる前に止めた方がいいのだろうが、今の止めてしまうと再び姫乃が虐められる可能性がある。
だから好きな気持ちを押し殺してイチャイチャするしかないだろう。
少なくとも一学期が終わるまでは。
「タカくんに抱きしめられると落ち着きます」
抱きしめ返してきた姫乃は、虐められる可能性を少しでも減らしたいらしい。
そうでなければ恥ずかしがり屋の彼女が、こうもイチャイチャしてくるわけがないのだから。
これ以上好きになってはいけないと分かってはいるものの、姫乃に求められたら応えなければならない。
これはそういった関係なのだから。
なので隆史もこれからは麻里佳にフラれたショックを引きずっているように装って慰めてもらう。
今は無理でもいずれ好きになってくれる可能性はあるのだから。
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