白雪姫と幼馴染みの会話

「白雪さん、いらっしゃい」


 自分の家に帰ると既に麻里佳がいて、隆史は苦笑いしか出来なかった。


 第二のマイホームみたいなものとはいえ、まさか自分の家のように麻里佳が居座っているとは思っていなかったからだ。


 休日はこの家にいることが多いものの、あくまで麻里佳の家ではない。


 しかもロンティーにショーパンという家でくつろぐ時の格好で、ワンピースを着てお洒落をしている姫乃とはえらい違いだ。


「お邪魔します」


 少し頬を赤らめた姫乃は可愛い靴を脱ぎ、麻里佳と共にリビングに向かっていく。


 隆史も靴を脱いでリビングに向かう。


「白雪さんは紅茶派? それともコーヒー派?」

「紅茶で。苦いのは苦手なので」


 ソファーに座った姫乃は紅茶が好きなようで、以前来た時に紅茶を出して良かった、と隆史は思った。


 苦いのがダメであればコーヒーは飲めないだろうからだ。


 姫乃の性格からしてコーヒーを出されたら飲んだかもしれないが、砂糖やミルクを入れても苦手な人は飲めない。


「お待たせ」

「ありがとうございます」


 ケトルでお湯を沸かして紅茶を入れた麻里佳は、テーブルに紅茶の入ったカップを置く。


 ティーバッグといっても林檎の香りがするため、苦いのが苦手な人にも飲みやすいだろう。


「いただきます」


 ホットの紅茶を口にした姫乃の顔は少し穏やかで、もしかしたら麻里佳相手にも少し安心しているところがあるのかもしれない。


 昨晩に隆史のことを信用していると言っていたし、その隆史と幼馴染みである麻里佳を信用出来るのは頷ける。


 ただ、完全に信用するのはこれから話してからだろう。


 今の姫乃は学校で見せる時の誰にでも見せる顔も混ざっているようなので、本当に信用出来るかこれから判断するようだ。


「たっくんからある程度の話は聞いてるよ。虐めなんて本当に許せないことだよね」


 姫乃の隣に座った麻里佳から怒りのオーラが出ているかのように顔が険しくなった。


 元気で優しい麻里佳が怒るのは本当に珍しく、姫乃を虐めた女子を許したくないのだろう。


「私も力になるからいつでも頼ってね」

「ありがとうございます。でも、私にはタカくんがいますから」


 ニッコリ、とこちらを向いて笑みを浮かべた姫乃が本当に可愛く、緊張や恥ずかしさとは別の意味で心臓に悪い。


 まるで初めて麻里佳を異性として意識した時と同じような感覚だ。


「たっくんがこんなにも頼りにされてる。お姉ちゃんとして嬉しいよ」


 本当に嬉しそうに思っている麻里佳を見て、隆史はやはり弟としか見られていないな、と実感した。


 異性として見ているのであれば、麻里佳の性格からしてもっとつっかかってくるだろう。


 悲しい気持ちはあるが、異性に見られていないのであればどうしようもない。


「そうですか。後、これからは私がタカくんのご飯を作りますので」

「え? それじゃあ私がお姉ちゃんぶれなくなるよ?」


 少し場の雰囲気が怪しくなってきた気がするも、隆史は止めにかかることはしない。


「式部さんはタカくんの告白を断った。一緒にいても悲しいだけだと思うんです。なら今後は私が作った方がいいと判断しました。それに関してはタカくんも了承してます」

「たっくん、本当?」


 ウルウル、と若干ながら涙が溜まっている茶色い瞳がこちらを向く。


 弟としてしか見ていないから付き合えないが、お姉ちゃんとしてお世話はしたい、そんなことを思っているのだろう。


「そう、だね。今後は姫乃に作ってもらおうかなって思ってる」


 フラれたのであれば幼馴染み離れしないといけないし、これからは姫乃に作ってもらった方がいい。


 でも、やはり麻里佳が好きな気持ちもあるため、作ってもらえなくなるのは悲しい気持ちもある。


「そっか……姉離れした弟を影から見守るのもお姉ちゃんの役目だよね。少し寂しいけど……」


 付き合うことは出来ないけど姉としてはもっと一緒にいたかった……涙を流した麻里佳はそんなことを思っていそうだった。


「ご理解いただきありがとうございます。でも、全く話すなというわけではありませんよ。あくまで今までより接触を控えた方がいいだけなので」

「なら良かった。たっくーん」


 抱きついてきた麻里佳は全く分かっていないのかもしれない。


 今までは手を繋いでくる程度だったのに今回抱きついてきたのは、いつまでも姉でいたいからだろう。


麻里佳が告白されているのに全て断っている理由として、『たっくんの面倒をみないといけないから』というものだった。


 面倒を見ていたいから彼氏を作らないようなので、この関係が続く限り麻里佳に恋人は出来ないだろう。


 気のせいかもしれないが、今の麻里佳は弟離れ出来ない姉のようだ。


 姉弟ではないにしろ、色々とブラコンを拗らせて離れたくないらしい。


「全く分かっていないじゃないですか」


 呆れた顔になった姫乃は、少し悲しそうな声を出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る