白雪姫の告白

「本当に一緒に寝るの?」


 時刻は二十三時、隆史は寝る前に姫乃に尋ねた。


 一緒に寝るのは初めてではないが、あの時はチョコのせいで酔っ払っていて記憶にない。


 だから実質姫乃と一緒に寝るのは初めてのため、心臓がこれ以上ないくらいに激しく脈打っている。


 バクンバクン、と先ほどから心臓の音が聞こえるのは、あり得ないほど緊張しているからだ。


 恐らく姫乃も緊張しているだろう。


「はい」


 ギュっと手を繋いできた姫乃は、何が何でも一緒に寝たいらしい。


 ただ、これから一緒に寝るから恥ずかしいのか、手から熱が伝わってくる。


「俺が襲いかかるかもしれないよ?」


 今更聞くまでもないかもしれないが、尋ねずにいられなかった。


 もし、ここで追い出されるようであれば、このまま自分の家に帰ればいいだけ。


 寂しくなった時に慰めてもらえなくなるのは辛いかもしれないが、何故か隆史に対して警戒心を微塵も見せない姫乃に男は危険って教える必要がある。


 実際に襲いかかる勇気などないが。


 恋人同士ならまだしも、付き合っているわけではないのだから。


「タカくんがそんなことするとは思えません。それにチョコで酔った時に本能が出てるでしょうから、本当に襲う気があるならその時にしてるはずです」


 確かにお酒を飲むと理性いつもよりが効かなくなると言うし、それに近い状態になっても襲われなかったから信用しているのだろう。


 以前抱きしめて寝てしまったが。


「まだ話すようになって一週間もたっていませんけど、私はタカくんのことを信用していますよ」


 笑みを浮かべて言う姫乃は、本当に隆史を信用しているようだった。


 チョコで酔った時だけでなく、下着姿の姫乃を抱きしめても襲わなかった、そのことも大きな要因だろう。


 実際には襲うだけの勇気がないだけなのだが、それが姫乃にとってはいいようだ。


 モテ過ぎるのだし、ガツガツくる男性が好きじゃないのかもしれない。


 そういった人が好きであれば、姫乃にはとっくに彼氏が出来ているだろう。


「だから……一番安心出来る、タカくんを感じながら寝させて、ください」


 自分で言って恥ずかしくなったのか、「あう……」と言う声が姫乃の口から漏れた。


 それでも一緒に寝ようとするのは、一人で寝るのが不安だからだろう。


「分かったよ」


 全面的に信頼してくれるのは嬉しいし、不安がっている女の子が一緒に寝てほしいと言っているため、一人で寝る理由がない。


 そもそも一緒にいようと言ったのは隆史自身なので、相手が求めているならそれに応えるだけだ。


「あ……」


 安心させるために、隆史は姫乃の赤くなっている顔を自分の胸に埋めさせる。


 きちんと慰めてあげるから安心してほしい、と抱きしめながら訴えかける。


 こうやって抱きしめるのはどんなに恥ずかしかろうと、安心させるためには仕方ない。


 抱きしめるのは嫌ではないが。


「ベッドに、入ろうか」

「は、はい……」


 そのままの体勢でゆっくりとベッドに上がって横になる。


 ベッドまで数歩だから一度離れても良かったが、そのままが良さそうっぽかったから抱きしめたまま移動した。


 ふかふかなベッドは心地良くて普段であればすぐに眠れそうだが、今日は姫乃を抱きしめているからそうはいかない。


 寝る前だというのに未だに心臓は激しく鼓動し、本当に寝るどころではないのだ。


 しかも抱きついた状態でどうすれば落ち着くのか分からないし、心臓の鼓動は姫乃にも伝わっているだろう。


「しばらく寝れない、かも」


 流石にしばらくすれば睡魔で寝てしまうだろうが、少なくとも日付が変わるまでは眠れる気がしない。


「私も、です。でも、明日は休みですし、こうしているのもいいと思います」


 胸からヒョコっと顔を出してきた姫乃は、すぐに寝るより抱きしめられていたいらしい。


 隆史としては色々と心臓に悪かったから早く寝たいが、どうやらそうはいかないようだ。


 すぐに眠れる気がしないのだけれど。


「タカくんの……好き、です」

「はいぃぃ?」


 あまりにも予想外の言葉に、隆史は奇声みたいな声で聞き返してしまった。


 聞き間違いじゃなければ、間違いなく姫乃はタカくんの……好き、です、と言った。


「タカくんの胸に、こうするの……好き、です」


 自分の顔を隆史の胸に押し付けてきた姫乃からの告白だ。


 仲良くなるキッカケが慰め合いなのだし、こうして胸で慰められて好きになったらしい。


 ただ、恋愛感情ではなく、この行為が好きなのだろう。


 まるで彼女が彼氏に甘える行動、さらには好き、という言葉に隆史の心臓は張り裂けてしまうんじゃないかと思うくらいに激しく動く。


 全身に血液が凄い勢いで巡っている影響なのかさらに身体が熱くなるし、恥ずかしすぎて姫乃のことを見ることすら出来ない。


 こうして抱きしめているだけでも上出来だろう。


「タカくんの鼓動、凄いです。あんな可愛い幼馴染みがいるのに、女の子慣れしてないのが分かります」


 まるでもっと感じたいかのように、姫乃は自分の耳を隆史の胸に当てる。


「麻里佳とは、一緒に寝るわけじゃないから」


 毎日ご飯を作りに家には来るが、もちろん泊まりなんてイベントが起きるわけではない。


「そうなんですね。じゃあ幼い時はともかく、思春期になってから女の子と一緒に寝るのは、私が初めて、ですか?」

「そうだね」

「なら嬉しい、です」


 えへへ、と笑みを浮かべている姫乃は、本当に嬉しいと思っていそうだった。


 だから勘違いするから止めてほしい、と言いたいものの、恥ずかしさで口にすることが出来ない。


「その……私は、男の子と一緒に寝るのは、生まれて初めて、ですから」


 頬を真っ赤にして言った後、姫野は恥ずかしすぎるのか照れ隠しするかのように隆史の胸に顔を埋めた。


 しばらくの間、隆史は脳のキャパがオーバーして何も言えなかった。

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