第48話 功山寺決起 4

 出発直前になって福田がそういうやり方をしてきたことに俊輔は肝が冷えた。


 実は功山寺決起の直前、それまで力士隊・遊撃隊と行動を共にしていた太田市之進の御楯隊みたてたいが急に参加しないと言い出したのだ。


 急に逃げ腰になった太田に高杉が怒り、なんとか周りが収めたのだが、ここでまた出鼻でばなをくじくようなことが起きては、決起がうまくいかない。


 すると、後方から大砲方たいほうがたの森重健蔵が大きな声を張り上げた。


総督そうとく! お進みになったらよかろう!」


 森重の声に兵たちが力を得て、高杉は馬を進めた。


「行くぞ!」


 俊輔は総大将の高杉に従い、進軍した。


 藩庁の出張所を襲撃し、長州藩の軍艦を奪い取り、高杉の軍は快進撃かいしんげきを見せた。


 下関では兵士の募集が行われ、百二十人の人々が集まった。


「これの名は好義隊とする。隊長は俊輔だ」


 高杉は俊輔を信用し、より大きな部隊を任せた。


 藩の上層部は高杉の快進撃を聞いて、萩の野山獄にいた七人の重臣たちを処刑した。


 上層部は処刑をすることによって、高杉たちをおびえさせるつもりだったのかもしれないが、処刑された中には松島剛蔵まつしまごうぞうら松下村塾生にとって近しい人たちも含まれており、むしろさらに火を点ける結果になった。


 俊輔は部隊を率いるだけでなく、軍を動かすための資金調達をしたり、檄文げきぶんを書いた。

 

 檄文とは自分たちの考えを多くの人たちに示し、仲間を集めたり、考えや行動に共感してもらうものである。


 藩の考え方を変えるため、そして、高杉や仲間たちのために俊輔ががんばっていると、ある人物に呼び出された。


「赤禰さんが伊藤さんに会いたいと待っています」


 高杉の軍が勝ち始めると、奇兵隊は後から高杉に近づいてきた。


 山縣は遅れた理由を「現在の状況を悲観ひかんして、剃髪ていはつしていた」とした。


 髪を剃り、素狂と名乗るというパフォーマンスを山縣はしたが、それはあまり好意的には受け取られなかった。


、伊藤たち高杉党の人間は、奇兵隊の者たちとは互いに口を利かなくなっていた。


 軍監の山縣はあれこれ言い訳を並べていたが、高杉が挙兵する時には一緒にやろうとしなかったではないかという冷ややかな気持ちがあったからだ。


 そんな中、奇兵隊の三代目総督である赤禰が俊輔を呼び出した。


 伝言を聞き、俊輔が料亭に行ってみると、赤禰は俊輔を仲間に引き入れようとしてきた。


「高杉は行動を共にする価値のある人間ではないぞ」


 赤禰はしきりに高杉から離れるよう勧めた。


「決起の際に、高杉は元百姓の赤禰ごときと言ったそうではないか」

「言ってましたね」

「あいつは心の中ではそういう風に思っているのだ」


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