第10話 私のすべきこと
その後、手紙を全て読んだ私は、重い真実を受け止めなければならなかった。
正直どのようにこの気持ちを処理したらよいのか分からない。まるで現実感がなかった。
指輪の呪いについては私の誕生日の日が来れば解けることが分かったけど、その後どうすべきなのかが分からないのだ。私の16歳の誕生日は間近に迫っていた。
翌朝、朝食をアド・ファルルカと一緒に摂った。
「手紙を読んだかい?」
「はい、読みました」
寝不足で目がショボショボする。ちょっと泣いたので目も腫れぼったい。
「ゼフレールは君をとても愛していた。それだけは間違いない。だけど、ゼフレールの真実が君の父親の真実とは限らない。だから真実はこれから君が見つけたらいい」
「呪いが解ければ全てが解決するわけじゃないと思うんです・・・だからその時にならないと、残った現実に対して自分がどうするのか分からないんです。母が間違っていたとか、誰が悪だとか、そんなことじゃなくて・・・」
「いいんだよ、君が何をどう選んでもいいんだ。だから君は思うままに進めばいい」
「ありがとうございます。私、王都に戻って誕生日を迎えたいと思います。このことが全て片付いたら、また会いに来てもいいですか?」
「もちろんだよ。それに全てを片付けるなんて、気持ちの整理は難しい。気にせずいつでもおいで」
彼の言葉は何もかもが優しく感じられた。私の欲しい言葉をくれる事が嬉しかった。
疲れを癒すために、ミケーネス領にもう一泊して、それからまた王都に戻ることにした。
私は、ブラノア伯爵家の娘として育ったフィルシャンテという子にとても会いたかった。呪いが解ける前に彼女に会って話がしたかった。どうしてもそうしなければいけないと思った。
まずは王都に戻ると、人の来ない静かな木陰を選び深呼吸した。
ヴィートレッドとの約束通り、白い鳥の形代をポケットから取り出して望みを口にする。
「ジュジュはヴィートレッドに会いたい。銀のスプーン亭で待っている」
願いを口にすると私の手の中の白い紙の鳥は、瞬く間に白い鳩に変化し、手のひらの上で羽ばたいて空に消えて行った。
前回教えてもらった『銀のスプーン亭』に宿をとる。
それから母の手紙の続きの内容を何度も思い出して考えた。
手紙には子供の取り替えについて語られていた。
ブラノア家で私が生まれて直ぐの話だ。魔女の異能を使い私とフィルシャンテを入れ替えたとあった。
なんと、フィルシャンテは特別製の#自動人形__オートマタ__#だったのだ。
母だから出来た事だった。
私のヴィードは本物のヴィートレッドにそっくりだけど、それは表面的に作りが似せてあるだけだ。
母は戦争が起こらなければ呪いが解けた時点で私を本来あるべき場所へと戻すつもりだったようだ。
ヴィードを私に与えたのは魔女の母のちょっとした遊びだった。彼女は王都に戻るたびにフィルシャンテの近況を調べていたようだ。
フィルシャンテの核にはゼフレールの亡くなった娘の魂が使われた。
指輪は私とフィルシャンテの魂を魔力で繋ぎ、私の姿が自動人形に映された。
それはブラノア伯爵の目を欺くためだった。
亡くなった子供は魔女の娘だったから、本来であれば赤い髪に緑の瞳の本質をもっていた。それを歪めたのだ。
自分とブラノア伯の子供を彼に育てさせたかったのだとあった。彼が自分を裏切らなければ、自分たちの間に娘が生まれて育つはずだった。だから、その子供を生き返らせて彼に育てさせたかったのだと。
そして、彼の元で育てられるはずだった私を奪うことで報復する事を選んだ。
恨みと執着に歪んだ思い付きのままそうしてしまったのだと。
けれど、ヴィートレッドが違うと気づいた様に、私とフィルシャンテの魔力は同じではない。
#自動人形__オートマタ__#の中でフィルシャンテの自我は成長し一人の人として育った。
自分が何者かも知らず育った。
彼女は竜騎士に憧れた。私が魔女に憧れたように・・・居場所が違うだけで、私と同じだった。
私が真実を知っても、母が母であるように、彼女の両親は伯爵家の両親だった。
指輪の呪いが消えた時、その魂は天に戻ると書いてあった。
――――もし、それが私だったら?それは嫌だ。
勝手に与えられ、奪われるなんて、嫌だ。彼女は真実を知り、選ばなけれならない。
彼女はもう一人の私。そう思うのは私の勝手だろう。
だけど、事実を知ってしまった私に出来ることをしたい。
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