140試合目 たまにはあいつと出かけることにするのも悪くない

 西屋敷はひっそりと出かける準備をしていた。まるで夜中に家に忍び込む泥棒かのように。

(柚希にばれないようにっと……)

 息も限りなく小さくひそめた、はずだった。

「兄さん、どこいくの?」

 まるで兄の影に潜んでいたかのように徹の後ろからヌルっと現れた。

「うわ!? びっくりした!!」

「そんな化け物を見るみたいに驚かなくてもいいじゃん……」

 柚希は今年高校2年である。しかしなぜかブラコン度が減ることはなくむしろ増している。

(柚希にでかけるのをばれるのは困る……。何とかごまかさなくては……)

「ごまかすって何を?? 兄さんどこに行くの?」

「うわ~心読まれた~。いや……あの……」

「兄さん??」

「すいません。この前のお礼にと彩花と春馬と紫で出かけてきます……」

「もう、素直に言ってくれればいいのに。私だってもう高校二年生ですよ??」

「柚希……」

「殺したりはしません!」

「いや、そんなヤンデレ妹は知らない」

 ほらね? いった通りでしょ? 彼女はブラコン。ヤンデレが薄くなったもののその分の愛がドストレートロケットランチャーで俺に打ち込まれる。正直言って毎日味噌に漬け込んだカツ丼を食わされている気分になる。胃もたれ必須だ。

「だって、彩花さんと春馬君はわかりますが、なぜ紫くんまで!!」

「もともと遊ぶ約束をしていてよかったら……と誘ったら『ぜひ』ということだったからな……」

「ならなぜ私を誘ってくれないのですか!??」

「いや……特に理由はない……けど」

「私は眼中にないということですね……しくしく……」

 やべえ。既視感。

「ごめんって。柚希も来るか?」

「兄さんがどうしてもって懇願して毎日祈りに来たい感情を私にぶつけたいっていう気持ちがあるならいいですよ」

「教祖か」

 結局ついてくることになった。


「す、すげ~~~~!」 

 彩花は紫を見てまるで憧れの人を見たかのようにテンションが上がっていた。

「紫さんってあの!? 剣道日本一の!??」

「なんだ? 知ってんのか?」

「そりゃもちろん!! 新聞にも大きく掲載されてましたし。今日はそんなお方に会えるなんて光栄です!!」

 剣道ってそんな日本全体で湧くスポーツだっけ? てかスポーツなのか? 武道なのか?? 

 そんなことを考えていると早々とした足音がだんだんこちらに近付くのを俺は聞いた。

「やあ!! 徹君!! 久しぶり!!」

 三年になってさらに美人度……もといイケメン度が増した気がする……。

「久しぶりっていうほどじゃないだろ?? でこっちの子が彩花だ」

「よろしくね、彩花ちゃん」

「あ……あの……」

 彩花がもじもじとするのも当たり前だ。こんなイケメンのおしゃれさんが現れたらこうなるのは当然。なのだが、そう考えると俺の周りの女性は全員変人ってことか……??

「兄さん??」

「ごめんなさい」

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