48試合目 母との思い出
当時の柚希は父のことが大好きで作文でも“大好きなお父さん”なんて書くほどにほほえましい関係だった。
母は体が弱く病院にずっと入院したままだった。
しかし母は弱音など吐かず、むしろ笑顔でいることの方が多かった。
「お母さん!!!あのねあのね!!!今日学校でね!!!面白いことあったんだ!!!」
と毎日のように報告するのが日課だった。
母はそれを聞いて微笑む。それが俺は大好きだった。
毎日毎日それを繰り返す。
だが子供もバカではない。どんどん衰弱してくる母を見て何も思わないわけは無く、心の中は少しばかりもやもやとした不安も背負っていた。
「にい…お母さんは治るかな…」
「お母さんは軽い病気だといってたし大丈夫だよ!」
俺も確かに不安だったが兄が弱くてはよくないという気持ちがあったので心配させないように柚希を元気づけた。
「そうだよね!!!治るよね!!!!」
しかしそんな思いは天には届かなかった。
それは雨が強く降る冬の夜だった。
「くる…しい…」
母は唐突に苦しみだして胸を押さえた。
次第に多くの医療従事者が集まってきた。
しかし、
「会いたい…俊介に…会いたい…」
死ぬ前に言った一言はそれだった。
俺と柚希は二人でベンチに座り泣きながら話した。
「なんで…なんでお父さんは来なかったの…!あんなに会いたいってお母さん、行ってたのに…」
「わかんないよ…そんなの…」
「大事じゃなかったんだ…お母さんのこと…」
「それは…」
俺は当時否定しきれなかった。俺も同じ気持ちだったからだ。
「でも父さんはあの時大変だったのは俺はわかってるよ。」
「いや…しかし、俺はあいつの願いをかなえてやれんかった…。俺が悪いんだ…」
父は少し瞳に涙をためながら下唇を噛んだ。
「でも父さんは…!!!」
「いいんだ。あの事は…」
すると扉が勢いよく開き
「お父さんはお母さんを捨てただけじゃない!!!!!お父さんに泣く資格なんてない!!!!」
「柚希!!!!!!いい加減にしろ!!!!!」
俺は黙っていられず思わず声を荒げた。
「兄さんはわかってない!!!母さんじゃなくて別の人を助けて母さんのもとに来なかった…」
「そこまでわかってるのに…。お前、父さんの話を最後まで聞いたか???」
「え…??何を…」
柚希は何がと言わんばかりに不思議そうな顔をした。
「じゃあ俺が話s…」
すると俺の口を父は塞ぎ
「これは俺が言わなければならない。だから俺が話す」
と柚希の目をまっすぐ見て当時の話を始めた。
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