第57話

バタバタしながら一同はカンパイし直し。


「あの時は申し訳ない。

 御挨拶も出来ないで、お二人に連絡行ってないとは知らなくて……」


六郎さんは祐介、晴介に頭を下げる。

和泉さんの実家に挨拶に行った六郎さん。

親戚には連絡したと聞いていたのだ。


「アンタ誰?」

「なんでアナタが謝ってるの?」


「え?!」

「ええええええ!」

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」


「この人が和泉の結婚相手!」

「年上のエロ爺ぃ?」


嘘だろ。

父さんより年上って。

どう見ても父さんより若いぜ。


目の前には優しそうな口調、落ち着いた物腰の男性。

二人が思い描いた仮想敵。

それは親子より年の離れた女を騙して結婚するエロ爺い。

そんなカンジでは全く無い。


「何だよ、良さそうな人じゃん」

「和泉と並ぶと似合ってるじゃん」


「悔しいけどな」

「ムカツクけどな」


祐介、晴介はお互いの顔を見る。


そうだよな。

やっぱり。

まだ認めてなんかやらない。

この人が良い男でも和泉に相応しくなんかあるもんか。



六郎さんと和泉さんは部屋の端っこ。

机に二人で座る。

ホスト役も兼ねる二人。

お台所から料理の追加、持ってきたりもする都合が有るのだ。


「この部屋、実は秘密が有るんです」


六郎さんが和泉さんに目配せ。

部屋のタタミを外してく。

するとそこには。

下に開いてる場所が。


ちょうど足を伸ばせるくらいの空間。

中央には火鉢。


「掘り炬燵です」


コタツ!

なんと炭を鉢に入れるホンモノ。


すごーい。

初めて見た。

和泉さんはオドロキ。

炭に火を入れると、真っ黒な炭が赤い色に変る。

なんだかキレイ。


これで空間を隠すようにテーブルに炬燵布団掛けたなら。

炬燵の完成。


ここは博物館か。

心の中でツッコンでしまうのは餅子ちゃんと金津くん。



「火事の危険も有るし。

 炭も手に入らなくなって。

 使わなくなってたんですけどね」


六郎さんが言う。

昔は炭を売ってた専門の人が居たらしいけどいなくなってしまった。

今では炭なんて100円ショップでも売ってる。

アウトドア、バーベキュー流行りで簡単に手に入る様になったのだ。


「これいいなあ。

 六郎さん、火鉢取っておいて新しい家でも使いませんか」


炭に火を付けて、灰をかぶせて。

コタツ布団に和泉さんは足を入れる。

温かい―。

たまんない。

コタツに入って和泉さんはくつろぐ。

すっかりお気に入り。


宴は盛り上がってる。

話題は本庄猪丸のプロポーズの言葉。


「綱子、キミは俺の女神だ。

 一生俺を導いてくれ」


そんな言葉だったらしい。



「さすがですね。

 そんなセリフ真顔で言えるのは

 日本で本庄さんだけです」


餅子ちゃんはクールな反応。

それ褒めてるの、けなしてるの。


「すげえ、カッコイイぜ」

「俺達も見習おう」


「見習わない方が良いと思うわ。

 祐介兄さん、晴介兄さん」


顔を赤らめてそっぽを向いてた綱子ちゃん。

攻撃先を転じる作戦。


「よお、和泉。

 六郎さんのプロポーズは何だったんだよ」

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