第56話

そうなのだ。

秋のコトである。

土曜日にお役所に行って、書類が無かった和泉さん。

日曜日には実家の長野まで戸籍取りに出かけてしまったのだ。


「ご両親へ挨拶に行ったんですよ。

 和泉さん」

「両親に挨拶なんて。

 要らないって言ったのにな」


「そうはいきませんよ」


和泉さんのご両親に挨拶に行く事にした六郎さん。

土曜の夜に和泉さんが電話で実家に連絡。

六郎さんも電話先に挨拶したり。

電話口から聞こえたのは若い女性の声。

ご両親かと思いきや、和泉さんの妹だと言う。

「分かりました。

 両親や親戚には連絡しておきます

 わたしにお任せを」

落ち着いた声。

和泉さんもヒデコちゃんに任せれば大丈夫と言う。

次の日朝早く、秀瑚さんから連絡があった。

待ち合わせ場所は実家じゃ無くて、ホテルのラウンジ。

顔合わせの席だ。

もしかしてホテルのレストランでも予約してくれたのだろうか。

恐縮する六郎さん。


しかし。

それどころでは無かった。

いきなり出会った義理の妹、秀瑚さんは言ったのだ。


「ホテルの会場で結婚式の予約してます。

 服もレンタルで抑えてます。

 すぐ行きますよ」


そこから両親への御挨拶もそこそこに。

即、ホテルの中の教会へ連れて行かれた六郎さん。

瞬く間に、タキシードに着替えさせられた。

正装をした六郎さんの目の前にはウェディングドレス姿の和泉さん!

正に電光石火!であった。



「はいコレ、写真です」


綱子ちゃんと餅子ちゃんは写真に見入る。

見せてるのは和泉さんの妹、秀瑚ちゃん。


「おっ、文金高島田これ結ったのか?」

「ウェディングドレスも、和泉さんキレイー!」


「はい、お色直しありで予約しました。

 最初が洋風、次に和服です」


「カツラだよ。

 結ってると大変だから今はほとんどの人がカツラなんだって」


カツラ、重かったー。

でも地毛で結ったら、髪の毛引っ張られてもっと大変そう。

和泉さんは思い出してしまう。


六郎さん、タキシード恰好良かった。

紋付羽織袴も似合ってたなー。

顔が勝手にニマニマしてしまう和泉さんだ。



「この姉ですから、放っておくと結婚式なんて何時になるか。

 長野に挨拶に来ると言うので一気に結婚式まで組んでしまいました」


秀瑚ちゃんはドヤ顔。

自分の手柄を誇る。

そんな顔も可愛らしい美少女だ。



「それっ! なんで俺達が参加してないんだよっ!!」

「ひでーよ! ヒデコちゃん!!」


「そうやって騒ぎ立てるから、兄さんたちには教えませんでした」


「クッソ、秀瑚ちゃんの陰謀か」

「どうも和泉にしては手際良すぎると思ったぜ」


祐介、晴介の二人は悔しがる。

チクショウ。

和泉はともかく。

両親達まで、オレらが結婚式に居ないのを不審に思わないなんて。

不自然すぎる。

あきらかにこの妹の仕業。

何かおかしいなと思って父親から無理やり聞き出した二人なのだ。


二人の兄を上から見下す秀瑚ちゃん。

口元には笑顔。

背丈は明らかに祐介、晴介より秀瑚ちゃんの方が低いのだけど。

どちらの立場が上か。

初めて兄妹を見る人達にまで分かってしまう。


可哀想に。

なんだか同情してしまう金津くん。

ちょっとこの二人には心境が似てる気がする。

僕も相手は年下なのだけど、上杉さんに睨まれると敵わない気がしてしまう。

和泉さんの結婚が気になってるのも一緒だ。


「兄さんたち、結婚式のビデオなら有りますよ。

 ブルーレイ、焼き増ししましょうか」


「くれっ」

「勿論だ」


「一枚、一万円です」


「高いっ!」

「しかし買う」


買うんだ。

秀瑚ちゃんに良いように操られてる二人。


金津君も欲しいな、なんて顔で見てる。

けど、餅子ちゃんと輝子ちゃんの目が冷たい。

買うのは諦めて、何かの機会にあの弟さん達にダビング頼もう。

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