第47話

別に和泉さんと六郎さんはケンカしてる訳では無い。

長尾家に住み着いてしまった和泉さん。

イヤガラセする程、六郎さんは子供じゃなかった。


料理は基本自分がします。

そう言って六郎さんは朝、食事を作っていく。

朝、昼、夜まで。

恐ろしく手際よい。

それぞれ違うメニュー。

栄養バランスも考えてるらしい。

塩分控えめ、見た目も美しい。

主食、主菜、副菜。

和泉さんは温めればOK。


「六郎のご飯だけじゃ詰まんない。

 和泉ちゃんのお丼も食べたいわ」


玉江さんが言う。

六郎さんが眉をピクつかせながら言う。


「分かりました。

 しかし彼女も学生、忙しい身です。

 週末だけ作ってもらいましょう」


そんな訳で週末の食事当番は和泉さんになった。


お掃除、お洗濯しようかな。

和泉さんがそんなコト考えても。

大学に行ってる隙に玉江さんがやってしまう。


和泉さんはたまに重たいお布団出すのを手伝うくらい。

これで本当に家賃無料で良いんだろうか。

三食ご飯まで戴いてるのだ。

せめて食事代だけでも払うべきかな。


そうでも無かった。

和泉さんの役割は有った。


大学が午前で帰って来た和泉さん。

あれ、玄関に見知らぬクツが有る。


まーたーかー!

拳を握りしめる和泉さん。

戦闘態勢。

ズンズン!

大股で家の中へ。


そこに居たのは。

黒いスーツを着た男の人。

膨らんだカバンからはみ出てるのは保険のパンフレット。

玉江さんの前にめったやたらと多数のパンフッレトが置かれてるのだ。

こちらの保険がお客様にはオススメでして、一緒にですね、こちらも加入するとなんと当社比20%もお安い価格になっておりまして、しかも非常時の補償もですね……。


フードを被ってピカピカしたアクセサリーをやたら付けた女性。

首にはドデカイ水晶のネックレス。

手には光る壺。

この家は風水的にダメなの。ホントウサイアクなのよ玄関から悪い気が入ってくるし、更にその悪い気が溜まっちゃうわ。そんな時にこの壺、これが有れば悪い気を全部吸い取ってくれるのよ。

玉江さんは何故だか、そんな話にもウンウンと頷いてる。

お茶まで出してるのだ。


和泉さんはすぅっと息を吸い込む。


「テメェら、あたしの家から出ていけーっ!!!!」


それでもグチャグチャ言う二人を喚きまくって追い出す。

フードの女性の方は論外。

完全にサギ。

保険の方は一見マトモそうだけど。

マトモな保険屋さんはお年よりに色んな種類の保険を進めたりしないのだ。

お年寄りが亡くなったら保険屋さんが損する。

一人で家にいる老人にやたらめったら保険を勧めて来るのなんてマトモじゃないに決まってる。


隣近所に聞こえる大声で和泉さんが怒鳴りまくると二人ともコソコソと逃げて行った。


六郎さんは言った。

「良いですか、柿崎さん。

 どこから調べて来るのか。

 昼間は老人一人だけだと思って怪しい訪問販売がこの家にはしょっちゅう訪れます。

 貴方にお願いしたいのはその連中の撃退です」


玉江さんはそんな人達まで、せっかく訪ねてきてくれたお客様だものと言って家に上げてしまうのだ。


かくして、和泉さんが大学から帰ってみると怪しい人間が家に上がり込んでるのは日常茶飯事。

そいつらを追い出してる和泉さんなのだ。

最初のうちは「要りません、出て行ってください」と丁寧に言ってた和泉さん。

何を言ってもこの人達は聞いちゃいないのだ。

大声で怒鳴るのが一番。

既に学習してる和泉さんだ。


さて夜。

和泉さんはお風呂に入ってる。

玉江さんに聞いたところ、以前は薪を煎れて炊きつけるタイプのお風呂だったらしい。

スゴーイ。

現在ではリフォーム。

普通にガス式、シャワーも付いてて、追い炊きも出来る。

いい湯だな、アハハン。


その頃、六郎さんは帰って来る。


「帰りましたよ」


「あら、六郎。

 今日は早かったのね」


「ええ、やっかいな案件が片付きましたから」


「嬉しい、珍しく家族三人でご飯食べられるじゃない」


玉江さんが食事を温めだす。

六郎さんはスーツを脱ぎに自室へ。


「……柿崎さんは?

 ああ、入浴ですか」


「まだ柿崎さんなんて呼んでるの。

 和泉ちゃんて呼んであげなさいよ。

 もう家族なのよ」


「家族って……。

 彼女は同居人で家族では無いです。

 彼女だって、男から変に距離を詰められても迷惑でしょう」


「気にし過ぎよ。

 彼女がいい娘だって事くらい分かるでしょう」


確かにあの女性は思ってたよりはまともそうだ。

しかし、初めて会った日これからバイトに行くと言っていた。

女子学生が深夜にバイトとは。

どんな仕事なんだか。

まぁ、今では辞めたようだけど。


「母さんこそ、やけに彼女を気に入ってる様ですね。

 何か理由でも有るんですか」

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