第39話

輝子ちゃんが話し出す。


「私が柿崎さんに会ったのは12歳の時でした」


「六郎さん、辛さどうですか?

 わたしもう少し辛くてもいいです」

「ならキムチ足しましょう。

 お肉も入れますよ」


「幼い頃、私は六郎さんにスゴク懐いていて・・・

 だから玉江さんが六郎さんの事を」


「美味っしい!。

 やっぱりキノコ、秋の味覚ですね」

「和泉さん、お肉ももう煮えてますよ」


「あのお二人とも、私の話聞いてます?」


だってお鍋だし。


「やだなぁ、輝子ちゃん。

 ちゃんと聞いてるよ」

「そうです、輝子さん。

 真面目に聞いてますよ」


と言いつつ、六郎さんはお鍋に具材を放り込む。

和泉さんはお鍋をモグモグ。

辛みのついたお豆腐がまた美味しい。


輝子ちゃんは諦めたのか。

眉をピクつかせながら、話の続き。


輝子ちゃんは六郎さんに懐いてた。

だから玉江さんが『六郎の事を任せられる嫁が来た』そう言ってた柿崎さんの事をスゴク気にしてたのだ。


「嫁って、嫁?!

 それ、あたしのコトなの」

「母がそんなコト言ってたなんて自分は知りませんよ」


「言ってたんです、玉江さんは」


親戚の女性陣。

みんなに玉江さんは宣言してたらしい。


和泉さんも六郎さんもビックリ。

おどろき、もものきである。

お互いの顔を見て、赤くなって、顔を逸らしたり。

そんなコトしてる二人だ。


輝子ちゃんはさらに眉をピクピク。

この人達、私の話聞く気無い。


「だからっ。

 私は凄く柿崎さんの事が気になっていて。

 それで」


小学生の輝子ちゃんが見た柿崎和泉さん。

柿崎さんは大人びていて素敵だった。


玉江さんのお葬式の席で。

テキパキ働く女性。

自分だってショックの筈なのに。

そんな所は見せない。

会った事もロクに無い筈の、長尾家、上杉家の親戚に囲まれて。

物怖じせずに堂々としてる大人の女性。


「私はスゴク恰好良いと思って、

 この人ならいいやと。

 この人が六郎さんのお嫁さんになるんだと楽しみにしてたのに」


それなのに、いつまで経っても結婚式の招待状は届かない。

まさか別れてしまったとか。

そんなコトも無いらしい。

一体どうなっているのか。


「それで久々にお会いできて、お話が聞けるなと思っていたら」


自分のコトは覚えてないし。

酔っぱらって、夜遅くに帰って来るし。

着替えてる部屋の扉をイキナリ開けるし。

部屋はスゴク散らかってるし。

それに私の事覚えて無いし!

初めまして、って言われたし!


どうなっているのか!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る