第30話

あれれ。

餅子ちゃんは怯える。

いつものランチタイム。

和泉さんも綱子ちゃんもムスっとした顔をしてるのだ。


「どうかしました?」

「何でも無いよ」

「なんでもねー」


昨夜、何か有ったんだろうな。

食事会から飛び出してった和泉さん。


餅子ちゃんはと言えば、あの後割と大変。

金津新平くんの相手をしてた。


「柿崎さん、やっぱり恋人さんに振り回されてるんですね」


ジョッキをドンドン傾ける新平くん。


「柿崎さん、いつもキリっとした雰囲気。

 たまに笑いかけてくれる笑顔がカワイイ。

 あれがたまらないんですぅ」

「そうだよな。

 柿崎キリっとしてるのに、たまにやたら抜けた表情や不安そうになるよな。

 アレ可愛いよな」


新平くんに同調してるのは本庄猪丸。

こっちもグラスを空にしてる。


「そうか、柿崎のヤツ。

 あんなに気にしてる恋人がいたのか。

 じゃ、俺の出る幕じゃ無いな」

「なんですか、本庄先輩。

 そんな簡単なんですか。

 柿崎さん、悩んでたじゃ無いですか。

 その恋人さんが柿崎さんを不安にさせてるんですよ」


「アホウ、金津。

 好きだから悩むんだろ。

 好きだから不安になるんだろうが」


なんだか、カッコイイ事を言ってる気もするけど。

本庄主任が言うとな。

ドラマのパクリみたく聞こえちゃうな。

容赦の無い事を考える餅子ちゃん。


その後もお酒の進む新平くん。


「僕は納得いきませんよ」


フラフラしてる新平くんを送って行った餅子ちゃんなのだ。



「綱子さん、昨日はどうしたんですか?」

「・・!?・・。

 何もねーよ。

 酔っぱらって家に帰った、それだけだ」


なんだか分かり易く、ギクッとしてる綱子ちゃん。



今朝、目覚めた綱子ちゃん。

自分が何処にいるのか分からなかった。

和泉の家・・・じゃないな。

餅子の家?

酔って寝ても、餅子か和泉が何とかしてくれるだろうと言う発想。

でも昨夜はどっちも居なかったのだ。


そして隣には男性。

髪が少し長め。

本庄猪丸であった。


「てめー、なんでオレの布団で寝てやがる」

「此処は俺のベッドだ。

 キミこそ何故、俺の部屋にいる?」



今朝は綱子ちゃんの人生最悪の目覚めだった。


本庄と話し合い。

とにかく二人して忘れようと言う結論になった。

お互い、多分何も無かった。

おそらく、絶対何も無かった。

そのハズだ。


しかし、今になって考えてみると。

あの男は本当に酔っていたのか。

今朝は驚いてるフリしてただけなんじゃ。

実は昨夜、正気で綱子を自分の部屋に連れ込んだのでは。


そんな疑いがドンドン膨らんで来る綱子ちゃんなのだ。

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