第10話

「そろそろビアガーデンの季節だろ。

 デパートの屋上、飲み放題で安い割に料理もイケてるらしいんだ」


綱子ちゃんは会社に知り合いが多い。

安くて美味しい店情報をどこかから仕入れて来る。


「ええっ、いいけど。

 でも六郎さんが夕飯作ってくれてる」

「今、連絡しておけばいいだろ」


そっか。

えっ、でもどーしよう。


「なんだ、あのじーさん。

 スマホ使えないなんて言うんじゃないだろうな」

「じーさんて言うのやめて」


六郎さんはスマホ持ってるし、ラインだってやってる。

でもそんなにしょっちゅう画面を覗き込みはしないのだ。

読んでくれるのが遅くなっちゃったら。


「六郎さんておじーさんなんですか?」


餅子ちゃんが訊く。


「そんな事無いよ」


確かに年齢的にはもう定年してるのだけど。

六郎さんは若い。

白髪なんて一本も生えて無いのだ。


実は、和泉さんはこの前自分の頭に白髪を発見してしまった。

ガーン。

大ショック。

若くして真っ白な髪になっちゃったらどうしよう。



綱子ちゃんも誘われたのだ。

営業部の本庄猪丸。


「直江さん、柿崎主任とも親しいんだってな。

 飲み会に呼べないかな」

「何、和泉になんか用なの」


「用って言うかさ、俺と柿崎が一緒に主任になったじゃん。

 今度はどっちも次の係長候補だって言うんだよね。

 まあ、ライバルみたいなモンだし~。

 ちょっと話してみたいな、なんて」


本庄は背が高くて仕事も出来る。

髪を軽く伸ばしてる。

綱子ちゃんから見ると今時、キムタク風かよみたいに思ったりもするのだけど。

会社の女子には人気が有る。


そんな事は知らない和泉さん。

綱子ちゃんは教えない方が面白そうだと思ってる。

餅子ちゃんも営業部のメンバーに金津新平くんが居るのを確認、ワクワクしてる。



ところが。

夏の天気は気まぐれ。

夕方から関東地方は落雷。

轟音と共に大雨が降り出す始末。


「キャッ」


餅子ちゃんは可愛らしく悲鳴を上げる。


「こりゃ、ビアホールは無理だな」

「しょうがないね、また今度」


営業の男子に断りのメッセを入れる綱子ちゃん。

綱子ちゃんはガッカリしてるけど、和泉さんは平気。

会社の付き合いも大事だけど、六郎さんの晩ごはんも捨てがたい。


「じゃあ私、和泉さんの家行ってみたいです。

 お家で女子三人で呑むのはどうですか?」


「和泉さんの家って確か駅から近いんですよね。

 綱子さんは行った事有るんでしょう。

 私、行った事無いから行きたいです」


確かに駅からの距離は近い。

五分も歩かずに長尾家は見えて来る。


「それに六郎さんの顔も見たいです」


餅子ちゃんが可愛らしい顔でそう言うのだ。

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