第6話

「多分ショックだったと思うんだ。

 ライバルの経理部長が役員になって。

 自分は役員にはなれない」


「ライバルって。

 負ける日が有っても、次見返してやればいい。

 別の日にはこっちが勝つ。

 そういうモノだろ。

 ところが部長は今年定年。

 もう見返してやる別の日は来ないんだ」


それは…ショックなのかもしれない。

定年なんて和泉さんにはイメージ湧かない。

今年入社したピカピカの社会人一年生なのだ。

ライバルだった人と明確な差が付けられて、もう追いつけない。

確かにやる気失っちゃうかも。


課長はそんな部長を見るのが辛かったらしい。

慰める言葉も見つからないし。


「どう元気づけたものか、分からなかった。

 だけど、部長元気になってる。

 昨日の柿崎さんのおかげだ」


ええー。

良く分からない。

そうなんですか。

でも確かに部長は今朝元気そうだった。

良く通る大声でおはようと言って出勤してきた。


「ほら、アレよ。

 昭和な人って、怒鳴るのも怒鳴られるのも好きだったりするじゃない。

 久々に怒鳴られて、元気がでたんじゃない」


先輩OLさんの発言だ。

それってエム的な事…。


「うん。

 怒鳴られるのが好きかはともかく。

 何か部長のスイッチが入った事は確かだと思う」


課長の言った通りだった。

その日から部長は精力的に働いた。


営業先を広げるべく自らも動いた。

部下にもドンドン仕事を振ってくる。

当然和泉さんにもである。


「ふにゃー。

 忙しいよう」


お家に帰ると六郎さんに泣きつく和泉さんだ。

玄関先に新品のスーツで寝転んじゃう。


「和泉さん、駄目です。

 スーツが汚れますよ、ホラ立って」


「抱き上げて運んでくれなきゃ歩けないー」


あ、少しだけだけど六郎さんが赤くなってる?

 

「抱き上げるのは無理です。

 肩くらいは貸しますから、自分で歩いてください」


疲れてるのをいいことに甘え放題な和泉さんだ。

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