第65話 就活解禁日
今日3月1日は俺も含めた全国の就活生にとってかなり重要な日であると言える。
その理由はこの日の0時からジョブナビなどの大手就活サイトを中心に説明会やプレエントリーの受付が開始される、いわゆる就活解禁日だからだ。
俺は就活に本気で取り組むために、今までやっていた大学内にあるコンビニでのバイトも既に辞めている。
朝目を覚ました俺はシャワーを浴びて着替えた後、早速ノートパソコンでジョブナビサイトを開き志望している企業へ片っ端からプレエントリーをしていく。
それからしばらくしてプレエントリーした会社からジョブナビに自動送信されたメッセージが次々に返ってくる。
「えっと、個別説明会の案内とエントリーシートの提出依頼が来てるな。あっ、でもインターン選考に参加した企業はエントリーシートの提出が全部免除になってる」
エントリーシートを提出しなければ正式にエントリーしたとみなされないわけだが、インターンの選考に参加した企業に関してはその辺りが免除になるらしい。
余計な手間が省けてラッキーだと思っていた俺は、スケジュールを確認しながら個別説明会の予約などを行っていると突然スマホが鳴り出す。
画面に表示されていた非通知という文字に若干怪しさを感じる俺だったが、意を決して電話に出てみる。
「はい、綾川です」
「私、四菱商事人事部の
「はい、そうですが……」
どうやら非通知で電話をかけてきた相手は四菱商事の人事部のようだ。
俺が電話の要件を聞こうとすると、相手から先に話しを始める。
「実はインターンシップで優秀な活躍をされた参加者の方と一度お会いして面談をしたいと考え、今回電話を差し上げました。来週実施したいと考えておりますが、ご都合はいかがでしょうか?」
「えっ!?」
人事部村上さんの言葉を聞いた俺は驚いて思わず変な声をあげてしまった。
なんと例年夏と冬に開催されたインターンに参加した学生の中で、目をつけられて選ばれた一部の学生しか呼ばれない選考優遇ルートの入り口である人事面談の案内が俺に来たのだ。
人事面談での評価が良ければ一次面接が免除となり、いきなり二次面接から選考が開始されるため、かなり有利になる。
俺は来週のスケジュールを確認するとすぐさま空いている日を伝え、面談の日程調節を行った。
「また後ほどインターンの際に提出いただいたエントリーシートに記載されていたメールアドレスの方へ人事面談専用のシートを添付させていただきますので、当日までに記入して持参をお願いします」
「かしこまりました、では当日はよろしくお願いします。それでは失礼致します」
めちゃくちゃ緊張してしまったが無事に電話を終えた俺は全身の力が抜けて後ろへ倒れ込む。
「……マジか、やった」
現在第一志望の企業となっている四菱商事の選考優遇ルートに乗れた事が分かり、俺は興奮が抑えきれない。
インターンの時は一度学歴フィルターに弾かれたせいで人事部に交渉の電話をかける羽目になって大変だったが、あの時諦めなくて本当に良かったと心の底から感じている。
「今日の昼は久々に贅沢でもするか、ちょっとご褒美が欲しい気分だからな」
俺はうきうきした気持ちで昼ごはんをどうするか考え始めていると、ポケットに入れていたスマホが再び鳴り始めた。
また非通知からの電話だったが先程の電話の件があり、もしかしたら就活関係の電話かもしれないと思った俺は若干怪しみつつもすぐに電話へ出る。
「はい、綾川です」
「私、
「はい、そうです」
今度は去年12月ウィンターインターンに参加した遠江銀行からの電話だった。
「先日は当行のインターンシップにご参加いただいてありがとうございました。綾川さんには当行の事をもっと深く知ってもらうために是非一度会ってお話しをしたいのですが、3月の第2週で都合の良い日はございますか?」
学生とコンタクトを取って採用活動を行う社員であるリクルーターが就活解禁日にわざわざ俺に電話をかけてくるという事は、恐らく採用活動の一環として会いたいという意味でほぼ間違いないだろう。
そういえばこの間のインターンからの帰り際に、人事部の人から呼び止められてグループディスカッションが素晴らしかったとの言葉をかけられていたため、それで目を付けられたのかもしれない。
地元企業の中では志望度が一番高く特に断る理由も無かったため、俺は日程調整をして参加する事を決めた。
「浜松の本店じゃなくて東京支店で会ってくれるって言ってるし、わざわざ帰らなくていいからめちゃくちゃ助かるな」
外資系は惨敗続きであり若干心が折れそうになった俺だったが、2社からも誘いがあり希望の光が見えたような気がする。
「ひょっとして俺モテる男になったかな」
嬉しくなった俺は少し変なテンションでそんな事をつぶやいた。
まあ、まだ内定が貰えると確定したわけではなくこっ酷く振られてしまう可能性も十分あるため一切油断はできないが。
ただ、今回の件は就活のモチベーションアップに大きく貢献したのは間違いない。
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