第46話 海へと続く道

 バイトや帰省、インターンへの参加などでどんどんと時間は過ぎていき、気付けば大学生3回目の夏休みも後少しで半分が過ぎようとしている。

 ある朝郵便受けを覗きに行った俺は、7月に受けたTOEICの結果が届いているのを見つけた。

 今回の試験はかなり自信があったため結果が来るのを待ち遠しく感じており、部屋に戻った俺はドキドキしながら封筒を開封する。

 そして封筒の中から結果を取り出した俺は、そこに書かれていた点数を見て驚く。


「おいおい、マジかよ!」


 なんと910点という高得点を叩き出す事に成功しており、今回の目標点数だった800点を大きく上回っていたのだ。

 点数の内訳としてはリスニングがほぼ満点でリーディングも8割以上の成績となっていた。

 リスニングの結果を見るに、恐らく短期留学に行ってネイティブの英語に触れ続けた事が大きいのではないだろうか。


「とりあえず紫帆に自慢してみるか。おーい紫帆、ちょっとこれ見てくれよ」


 今日はサークル活動が休みで家にいた紫帆に、俺は上機嫌で結果を見せる。


「えっ、めちゃくちゃ凄い点数じゃん、共通テストの英語が180点くらいあった私でもあんまり点数が取れなかったのに」


 紫帆が平成大学のクラス分けで4月に受けたTOEICの点数が500点台後半だった事を考えると、俺のそれはかなり高いと言えるだろう。

 もっとも紫帆の場合はTOEICの試験対策をほとんどやっていない状態で受けた事を考えると、正しい対策をしておけばもっと高い点数が取れるのは間違いと思うが。


「私もTOEIC頑張ろうかな、高得点を取ったら単位認定されて授業免除になるし」


「共通テストの英語が9割も取れてるならすぐ高得点を狙えるだろ」


 共通テストで6割がやっとだった俺でも900点に到達できたのだから、英語の基礎学力が高い紫帆なら単位認定される点数を取る事など余裕に違いない。

 そんな会話をしていると、そろそろ実乃里との約束の時間が近づいている事に気付く。


「あっ、もうこんな時間か。昨日も言ってたと思うけど、俺は多分夕方くらいまで帰ってこないからお昼は適当に食べといてくれ」


「今日は実乃里さんと海に行くんだっけ? 大丈夫とは思うけど溺れないようにね」


 日焼け止めや海パンなど必要な物をリュックにまとめた俺は、バイクで実乃里のマンションへと向かい始めた。


 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 


 マンションに到着した俺は駐輪場へバイクを停めると、実乃里の部屋の前まで移動する。

 そしてインターホンを押してしばらく待っていると、機嫌が良さそうな様子の実乃里が出てきた。


「おはよう、春樹君。とりあえず上がって」


 低血圧なのか朝が弱く普段なら今の時間帯は眠そうな事の多い実乃里だったが、今日は朝から元気いっぱいだ。


「いつもは眠そうなのに今日はめっちゃ元気じゃん」


「あっ、やっぱり分かる?今日に備えて昨日は早く寝たから、全然眠く無いんだよね」


 なるほど、いつもより長めの睡眠時間を確保したおかげらしい。

 部屋の中へと上がった俺はすっかりと見慣れたダイニングへと案内される。


「外は暑かったでしょ、麦茶持ってくるよ」


「ありがとう、マジで助かる」


 冷蔵庫から冷たい麦茶の入ったピッチャーを取り出した実乃里は透明なグラスの中へと注ぎ込み、それを受け取った俺は一気に中身を飲み干す。

 こんな真夏の暑い時期だが、安全を確保するために長袖ジャケットとフルフェイスヘルメットを被っているため、死ぬほど喉が渇くのだ。

 麦茶を飲んだおかげで、カラカラになっていた喉が一気に回復させられた。

 そんな俺の様子を近くでニコニコしながら見ていた実乃里に話しかける。


「海に行く準備はできてる?」


「ばっちりだよ、春樹君に選んでもらった水着もちゃんと準備してるよ」


 悪戯っぽい笑顔を浮かべてそう言った実乃里の言葉を聞いて、俺は顔が真っ赤に染まっていくのを強く感じた。


「もうその話を出すのは辞めようぜ、思い出すだけで恥かしいからさ」


「あれ?顔が真っ赤になってるよ。春樹君は一体何を思い出してるのかな」


 そう、つい先日俺は浮気を心配させた罰として実乃里の水着選びに付き合わされたのだ。

 女性用の水着売り場に連れて行かれた俺は、周りからの好奇の視線に晒されながら実乃里の水着を選ばされる。

 その上、俺が提案する水着に実乃里が中々納得してくれなかったため長時間滞在する羽目になり、途中から羞恥心で死にそうだった事は記憶に新しい。

 実乃里には意外とドSな一面がある事を知った俺は、もう絶対怒らせないようにしようと強く心に誓っていた。


「と、とりあえず準備ができてるならそろそろ出発しようか」


「そうだね、行こう」


 若干噛みながら話を強引に中断させた俺だったが、どうやら実乃里もからかう事に満足したらしい。

 改めて忘れ物が無いかを確認した俺達は、部屋を出て2人でバイクに跨ると海水浴場へ向かって出発した。

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