第19話 絶叫お化け屋敷
ジェットコースターから降りた俺達は、急流すべり、メリーゴーランド、空中ブランコの順番でアトラクションに乗り、今はお化け屋敷の前まで来ていた。
「け、結構雰囲気あるね……」
「確かにかなり凝った作りになってるよな」
俺達の目の前にそびえ立つお化け屋敷は、廃墟になった病院のような外観をしていてかなり怖そうな雰囲気に見え、中からは悲鳴が聞こえてきている。
パンフレットによると、かつて患者に対して惨い人体実験が繰り返されていた隔離病棟跡地という設定となっているようだ。
入る前から実乃里は既にガタガタと震えていて、俺の手を握っている力も普段よりほんの少し弱かった。
ジェットコースターは全く怖く無い実乃里だったが、どうやらお化けは苦手らしい。
「本当に入って大丈夫? もう既に顔が真っ青だけど」
「大丈夫だよ、平気平気」
そう無駄に明るい声を出している実乃里だったが全然大丈夫そうには見えず、入る前から色々と不安になってくる。
「今ならまだ辞められるけど……?」
「お、お化けなんて非科学的なものはこの世に存在しないんだから、怖くなんてないよ」
俺はそう声をかけたが実乃里は頑なにそう主張したので、結局お化け屋敷の中へ入る事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お化け屋敷に一歩足を踏み入れると、中は非常に薄暗く不気味な雰囲気が漂っており、さらに心電図モニターのような音が辺りから聞こえてきている。
実乃里の顔には恐怖の感情が浮かんでおり、かなり怖がっているようだ。
消毒液の匂いがするのも病院という設定を忠実に再現していて、恐怖を煽る要因となっている。
そのまま電灯がチカチカと点滅する暗い通路を進んでいくと、明るい部屋が見えてきた。
遠目からだと、普通の病院にもある待合室室のように見える。
「あれっ、急に明るくなったね。休憩地点かな?」
まだ序盤なのにそんなものがあるわけないと思いつつ進み部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、急に部屋の照明が落ち真っ暗になる。
「きゃあぁぁぁぁ!」
実乃里は悲鳴をあげて思いっきり抱きついて来るが、俺はこうなる事を事前に予想していたため冷静だ。
理由は分からないが、俺は昔からホラー映画やお化け屋敷は平気であり全く怖く無く、それは今でも変わらない。
しばらくすると血のような赤い照明が点灯し、身体中にメスが刺さった血塗れの患者服を着た男が無言で部屋の中央に立っていた。
「いゃあぁぁぁぁ!」
大きな悲鳴をあげた実乃里は俺の手を掴むと、そのまま進行方向へ走り出す。
手を引かれてそのまま通路を進むと、手術中とランプが赤く点灯している部屋の前に到着した。
すると断末魔のような叫び声が中から聞こえ、赤いランプがすっと消える。
そして扉がゆっくりと開かれると、中にはベッドに体を縛り付けられ、生きたまま脳や心臓を抉り出されたと思わしき患者が力なく横たわっていた。
実乃里はガタガタと震えており、俺に全力で抱きついてきている。
その際に胸を俺の体に思いっきり押し当てているが、気にするような余裕はないらしい。
「お、起き上がってきたりしないよね……?」
いや、このパターンは多分十中八九起き上がる、俺はそう告げようとするが残念ながら間に合わなかった。
脳と心臓を剥き出しにした患者はベッドから起き上がると、俺達を追いかけ始めたのだ。
「もうやだあぁぁぁぁ!」
再び俺の手を掴んだ実乃里は走り出し、俺はそのまま引っ張られる。
それからも行く先々で実乃里は悲鳴をあげ、俺に抱きつき、手を引っ張って逃げたり、逆に固まって動けなくなって俺が手を引くなどを繰り返しながら進んでいき、出口に近づいてきた。
「や、やっと出られる……」
ようやく出口の明かりが見え、実乃里が安心したような表情になってきたところで突然左右の病室から実験台のゾンビ達が出てくる。
「いゃあぁぁぁぁ!」
追いかけてくるゾンビ達から俺達2人は全力疾走で逃げ、ようやくお化け屋敷の外に出られた。
実乃里は中で何度も驚いたり悲鳴をあげた事が原因で息も絶え絶えな様子であり、さっき俺がジェットコースターから降りた時と同じような表情となっている。
「怖かったよぉぉ!」
人目をはばからずそう声をあげながら涙目の実乃里が俺に抱きついてきたのは少し恥ずかしかったが、そのまま優しく抱きしめ返した。
「もう外に出たから大丈夫だよ」
俺がそのまま頭を撫でると実乃里はほんのりと赤い顔になりしばらくそのままだったが、ハッと我に返ると慌てて俺から離れる。
「白昼堂々と春樹君に抱きついちゃった、めちゃくちゃ恥ずかしい……」
自分が凄まじく大胆な行為に及んでいた事に気付いた実乃里は顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに俯いてしまった。
こんな時彼女に対してどんな言葉をかけるべきか分からなかったので、俺は自分の素直な気持ちを伝える事にする。
「実乃里に抱きつかれて俺は嬉しかったよ……」
そう告げると、実乃里は相変わらず恥ずかしそうな表情をしつつも、少し嬉しそうな様子となるのだった。
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