第18話 アドベンチャーランド

「やっと着いたね」


「まだ入ってないのにはしゃぎ過ぎじゃない?」


「だって楽しみなんだもん」


 アドベンチャーランドに到着した俺達だったが、実乃里は飛び上がりそうな勢いで大喜びな様子だ。

 インターネットストアでアトラクション乗り放題の入場チケットを既に購入しているので、窓口に並ぶ必要は無い。

 プリントアウトしたチケットを見せて入場ゲートをくぐると大きな観覧車やジェットコースター、メリーゴーランドなどが視界に入ってきた。


「思ってたよりも人が少ないね」


「俺達大学生とは違って小中学生、高校生とかはまだ春休みになって無いはずだし、今日は普通の平日だからな」


 土日や祝日を避け、平日に来ていたので想像よりも人通りが少なく、アトラクションの待ち時間も少なくて済みそうなのが嬉しい。


「じゃあまずはコーヒーカップに行こうよ」


「よし、行くか」


 以前話し合って決めた順番通り、まずはコーヒーカップから乗る予定だ。

 マップを見ながらコーヒーカップを目指して歩き始める。


「ちなみに春樹君って遊園地に来るのは久しぶりなの?」


「最後に行ったのは家族と中学生の頃だから、かなり久しぶりだな」


 地元の遊園地に家族と行ったその時は、人気アトラクションが2時間待ちとなっていた記憶があり、俺も当時小学生だった妹も不満が爆発しそうになっていた事は、今でもはっきりと思い出せる。


「私も中学3年生の修学旅行の時が最後だから一緒だね。高校生になると勉強とかに追われて行くどころじゃ無かったし……」


「確かに、高校生になると宿題も増えるしテストとか模試とか色々あったから、あんまり遊ぶ余裕は無かったな」


 俺の通っていた偏差値55の自称進学校は、無駄に宿題や土日の補習が多く、さらに部活や塾もあった事から、かなり大変だった。

 夏休みも補習で半分以上潰されて、ろくに遊べなかったのは今でも根に持っている。


「それと比べて大学生って自由な時間が多いから本当に楽しいよね」


「それは間違いないな。授業も自分で好きに決められるし夏休みとか春休みも長いから、高校までとは大違いだよな」


 そんな雑談をしながら歩いているとコーヒーカップの前まで到着した。

 待ち時間はほとんど無く、係員にコーヒーカップの座席まで案内される。


「コーヒーカップなんて本当に久しぶり」

 

「俺なんて遊園地に来てもコーヒーカップなんてあんまり乗らなかったから、余計にそう感じるよ」


 しばらく待っているとコーヒーカップが動き出し、実乃里がハンドルを回す。


「思ったよりも楽しいね、これ」


 実乃里はノリノリでハンドルを回し続け、それと連動してコーヒーカップもくるくると回り続ける。

 それに合わせて周りの景色も次々と移り変わっていくので、見ているだけでそれなりに楽しめた。


「春樹君も一緒に回そうよ」


 そう実乃里から促され、俺もハンドルを回し始める。


「確かに思ったより楽しいな」


「でしょ、理由は分からないけど何故か楽しいんだよね」


 俺と実乃里は終わりの時間が来るまで、2人で仲良くハンドルを回し続けた。


「じゃあ、次はジェットコースターだね」


 コーヒーカップを降りた俺達はジェットコースターを目指して歩き始める。

 真面目そうな見た目の実乃里だが、その外見とは裏腹に絶叫マシンが大好きらしい。

 俺の勝手な想像では苦手そうなイメージがあったので少し意外に感じていたが、そんな意外な一面がある方がギャップ萌えになるためいいと思っている。


「ここのジェットコースターって結構怖いらしいけど大丈夫?」


 クチコミなどを見ていると、アドベンチャーランドのジェットコースターは全国の遊園地の中でもかなり怖いらしく、絶叫マシンがあまり苦手では無い俺でも内心少し怖がっていた。


「だからいいんじゃない。どれだけ怖いのか今から楽しみで仕方がないよ」


 なるほど、どうやら怖がっているのは俺だけらしい。

 彼女の前で情け無い姿は見せられないので、俺は覚悟を決める。

 ジェットコースターの前に到着すると順番待ちの列ができていた。

 結構空いている園内だが、ジェットコースターは人気アトラクションの1つのため、流石に順番待ちが発生するようだ。

 それでも列の長さ的にはせいぜい10分待ちぐらいに見えるので、大した待ち時間では無いが。

 それから適当に雑談をしながら待っているとあっという間に順番が回ってきた。

 係員に案内されて乗り込むと安全バーが下ろされ、ジェットコースターが発進する。

 最初は怖いと言われている割には大した事が無いと思っていたが、すぐにその考えが誤りである事に気付く。

 最初は比較的緩やかだったコースが中盤辺りから一気に激しくなり、怖さが急激に跳ね上がったのだ。

 最初に油断させておいて安心しきったところで恐怖のどん底に叩き落とす設計が怖さの秘訣となっているのだろう。

 あまりの恐怖に悲鳴をあげたくなるが、実乃里に格好悪いところは見せられないので気合いで我慢する羽目になり、途中からは拷問を受けている気分になっていた。


「めちゃくちゃ楽しかったね」


 乗り場に到着したジェットコースターから降りたところで、実乃里が興奮した様子で話しかけてくるが俺は息も絶え絶えであり、完全なる棒読みで返答する。


「……ああそうだな」


 楽しそうな表情をしている実乃里とは対象的に、俺の表情は完全に死んでいた。

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