大学2年生編

第4話 これからの目標

 成績優秀者として表彰され学費が免除になった事で親からもめちゃくちゃ褒められた俺は勉強に対するモチベーションがかなり高くなっていて、心の傷からも完全に立ち直っていた。

 それこそ初めてできた彼女にこっ酷く振られた事やサークルを追放された事が全て些細な事に思えるくらいなっており、今の俺はかなり前向きでやる気にも満ち溢れている状態なのだ。

 そして夏休み明けに始まった2年生の後期、俺は今期も成績優秀者となるべく授業には当然毎回出席し、一番前で講義を受け、積極的に質問をするなど、超が3つも4つも付くレベルの模範的な学生となっている。

 これまでは教室の後ろの方へ座り、毎回適当に授業を受け、講義中にガチャを引くための石を集めるためソシャゲのダンジョン周回をするなど、かなり不真面目な学生だったと言えるが、今や見る影も無い。

 そんな中、将来の事を色々と考え始めた俺は誰もが知る大企業に入りたいという思いがかなり強くなって来ていた。

 理由は人間性が最悪な秋本や望月などのゴミカス供とは違う世界で生きていきたいと思ったためだ。

 具体的には外資系のシルバーマン・サックスや総合商社の四菱よつびし商事、都市銀行の四井よついUSJ銀行、証券会社の野街のまち証券などが俺の行きたいと思っている企業だ。

 だが俺がこれらの企業の選考を突破するために必要な能力で、圧倒的に不足していると明確に分かるものが一つある。

 それは英語力であり、特に外資系や総合商社では必ずと言っていいほど必要となってくる能力だ。

 現在俺のTOEICスコアは400点台前半ぐらいであり、大学生の平均点が大体570点である事を考えると、はっきり言ってあまり高いとは言えない。

 高校の頃から英語はあまり得意な科目ではなく、この大学の入試も国語と世界史頼りだった事を俺は思い出す。

 外資系や総合商社では最低でも700点以上のTOEICスコアが必要とされているため、英語力の底上げは今の俺にとっては必要不可欠な事なのだ。


「でもどうやって英語力あげるかが問題なんだよな。基礎学力がそんなにないから正直英語の授業だけだと限界があるしな……」


 俺がそんな事をつぶやきながら自室の机で情報収集のためスマホを使ってネットサーフィンをしていると、突然ページの下部にバナーとして表示された広告を間違えてタップしてしまう。

 全く見る気のなかったページが表示され内心苛立つ俺はすぐに閉じようとするが、すぐに手を止める。

 なんと出てきたのは有名予備校の資格対策講座についてのページだったのだ。

 宅地建物取引士や簿記、ファイナンシャルプランナーなどの人気資格とともにTOEIC対策講座についても記載があった。


「バイトのシフトとの兼ね合いもあるけど、授業が終わった後に予備校通うのもありだな」


 カリキュラムやら受講料やらの情報を見終わった俺は、すっかり予備校に通うという選択肢も悪く無いと思い始めている。

 善は急げという事で早速俺は親に電話をかけ、TOEICの点数をあげるために予備校に通いたいから金を出して欲しいとの交渉を開始した。

 長期戦になることも覚悟をしていたのだが、成績優秀者となり学費が免除になった事で両親の中で俺の株がストップ高になるレベルで爆上がりしていたらしく、あっさりとオッケーが出たのだ。

 断られた場合は自分のバイトの収入から費用を捻出する事も検討していたが、そうならずには済んだらしい。


「よし、まずは次の試験で600点以上取れるように頑張っていこう」


 俺はそう自分なりの目標を決めて予備校に通う事を決める。


 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 


 それからしばらく予備校に通っていたある日、俺は近くの席に座っていた眼鏡をかけた同い年の女の子である朝比奈実乃里あさひなみのりと仲良くなった。

 朝比奈さんは平成へいせい大学の文学部に通っている2年生で、平成大学は河村かわむら塾の出している偏差値が62.5ある難関私立大学の一つだ。

 朝比奈さんの使っていたクリアファイルのデザインが俺の好きなアニメのキャラクターだったため、俺から話しかけて仲良くなったのがきっかけだった。

 見た目はかなり真面目そうで委員長をやっていそうなタイプの朝比奈さんだったが、実はかなりのアニオタであり、俺と波長があったのだ。

 最近では一緒に帰るようにもなっていて、予備校終わりに食事に行ったり、休日に一緒に遊ぶような仲にまでなっている。


「綾川君、今週の土曜日か日曜日のどっちか暇だったりする? 私見たい映画があるんだよね」


「土曜日はアルバイトのシフトに入ってるけど日曜日なら大丈夫」


 そして今日も一緒に帰っていると朝比奈さんから遊びに誘われ、日曜日は何も予定がなかった事を思い出した俺はすぐに了承した。

 女子校出身の朝比奈さんは全く男慣れしていなかった事もあり、最初の頃は距離感を感じる事があったり、かなりぎこちない感じの会話となっていたが、今では普通に話せるようになっていて気付けばかなり積極的に誘ってくるようにもなっている。

 まあ、俺以外の男と話す時は相変わらずぎこちない感じにはなっているけど。

 俺の言葉を聞いた朝比奈さんは嬉しそうな表情で口を開く。


「じゃあ、駅前の映画館前で待ち合わせしよう、約束だよ。詳しい時間は後でメッセージするね」


 こうして今週の日曜日、一緒に映画を見に行く事が決定した。

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