276)恐怖の夜②

 梨沙から頼まれた安中大佐の調査を行う為……自衛軍のサーバーをクラッキングしていた志穂。


 そんな中……いかにも怪しい暗号化ファイルを、解読の上展開した所……。



 突然……志穂の部屋だけ停電し、しかも……テレビに血の様な文字が描かれたのだった。



 (い、一体! どう言う事!? 私のテレビは通信機能が付いてない……。だから、外部から侵入なんて出来る訳ない! その事は私が一番分かってる。だ、だったら何で!?)



 志穂は恐怖の中……心死に思考を働かせ、目の前で起こっている事の状況整理しようとしたが、すぐに在り得ない事だと分って更に混乱する。



 

 常時ネットワークに接続されたパソコンなら、志穂でもマルウェアを送って自在に操る事が出来る。


 しかし……ネット環境と接続出来る、スマートテレビでは無い志穂のテレビが……外部操作出来る訳が無い。


 そんな方法は、高いハッキングスキルを持つ志穂ですら……どう考えても不可能だった。


 

 その事実に狼狽する彼女を余所に、更に事態は進行する。



 すると今度は電源が落ちている、パソコンのディスプレイがテレビと同じ様に、勝手に光り出して白い文字を記し出す。



 「ヒ……ヒ……!」


 

 あり得ない状況が続く中、志穂は恐怖により混乱し動く事も出来ず、小さな悲鳴をもらすだけだ。



 そんな中、ディスプレイに書かれた文字は……。



 “志穂ちゃん達が知りたがってた事……少しだけ教えてあげようか? 教えて欲しいでしょ?”



 志穂に問う内容だった。



 「お、おおおお前! なななんだよ!? もう、もう良いから消えてくれ!」



 志穂は文字を見て叫びながら、ベットに転がり込み、毛布を被ってガタガタ震える。



 

 恐怖で震える志穂を嘲笑うかの様に、更に事態は進行した。



 “チン!”



 そんな音と共に今度は……電子レンジの覗き窓部が勝手に光り出し、赤い文字を画き出す。


 志穂は手布を頭から被りつつも、毛布の隙間からその様子を見る。



 電子レンジの覗き窓に記された文字は……。


 

 “怖がらないで……私は何もしないわ……。それでね、志穂ちゃんが調べてた彼だけど……真面目で優し過ぎる方よ? ずーと大昔からね……。だから、あの方は……悩みながら……残業してるわ……。本当に不器用な方……”



 記された文字を見た志穂は、恐怖に震えながらも……書かれた内容が気になって呟く。



 「……ざ、残業……?」


 

 志穂が思わず呟いたのは、あの暗含化フォルダのファイル名が……英語で残業と書かれていたのを覚えていたからだ。


 

 そんな志穂の呟きに答える様に、電子レンジの覗き窓の文字は更に追記される。



 “そう……残業……。この日、この場所で彼は残業するわ……。その事を……梨沙ちゃんに伝えて……”



 志穂は被った毛布の隙間から、覗き窓に書かれた文字を確認しながら、灯りを付けようとして持っていた携帯端末で震えながら撮影した。


 覗き窓に記された日付は、数日後で……場所は志穂も知っている大型のレストランだ。




 志穂は、描かれた文字を撮影した後……表示機能など無い電子レンジの覗き窓へ、文字が書かれている異常事態に……今更ながら気付き、激しく狼狽した。


 彼女は、毛布を被り直しガタガタ震えながら……脳内で叫ぶ。



(何がどうなってんの!? こ、こんな事現実じゃない!)



  真黒な暗闇の中……勝手に電気が付いたテレビやパソコンのディスプレイ、そして電子レンジ。



 それらに記された赤い文字を毛布の中から見て、志穂は大いに混乱する。


 

 テレビやパソコンのディスプレイに文字が映る事はまだ、理解出来る。……電源が付いて無い事は別にして。



 しかし、電子レンジの覗き窓は……どう考えてもおかしい。あの覗き窓はレンジの中を見るだけの、唯の耐熱ガラスだ。


 そのガラス窓が、勝手に白く光り……赤い文字を描かれる。志穂が知る限り、プロジェクションマッピングと言う技術なら出来るかも分らないが……ここは自分の部屋。



 そういうプロジェクターなども有る筈が無く、物理的に不可能だ。



 しかも、テレビやパソコンのディスプレイに次いで電子レンジの覗き窓に次々文字が描かれる事など、理解が追い付かなかった。




 物理法則を超えた現象に、志穂は恐怖でどうにかなりそうだった。



 記された文字は志穂の事情を良く知るものであり、その上……彼女の独り言にすら即答してきた。


 誰かが、志穂の真近に居て理解出来ない方法で、メッセージを伝えているのだ。



 だが、彼女の狭い自室にはどう見ても誰も居ない。 志穂は、霊現象等のオカルトは見るのは好きだが、自分が受ける方は大の苦手だった。




 ベッドで震える志穂に、更なる恐怖が襲う。



 “ギギギ……”


 

 毛布を頭から被る志穂の耳に何やら、気味の悪い音が聞こえる。



 恐怖に震える中、音がした方を見ると……。



 何と、飾られているフィギュアの一体が動いているではないか!



 それを見た志穂は……。



 「ギャー!! ギャー!!」


 

 彼女は、もはや我慢出来ず、あらん限りの絶叫を上げた。そんな中……。



 「……あれぇ、酷いよ……志穂ちゃん……。いつも私の事……大事にしてくれるでしょ?」


 

 そのフィギュアは、志穂が大好きなアニメのヒロインキャラだったが……怖がる彼女に向け、アニメと同じ声優の声で、口調で話し掛ける。



 対する志穂は悲鳴を上げながらも、恐怖の為か固まり……そのフィギュアから目が離せない。


 

 “キリキリキリ……”



 フィギュアは、首をあり得ない角度で回しながら……彼女に声を掛ける。



 「……怖い? これに……懲りて……悪い事したら、ダメね? また、伊藤さんに掴まっちゃうよ……。それじゃ……さっき伝えた事……忘れないで?」



 フィギュアは首をキリキリ回しながら……最後には首を逆さに向け、志穂に囁いた後……その首をポトリと落とした。



 それを見た志穂は……。



 「ヒイィィィィ!!」



 恐怖がクライマックスに達して絶叫した後……そのまま気絶したのであった。



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