255)梨沙少尉の疑念②
倉庫室に志穂を呼び出した梨沙は、安中との別れと再会について話した。その話の中で志穂は過去と現在で、大きく豹変した安中に違和感を感じる。
「ああ、そうなんだ……アイツは、出会った頃から顔も、体も、声も……外見は何もかも変わらない。でも……拓馬は……性格が余りに変わり過ぎたんだ。……流石に気になって、再会してスグにアタシも調べてみた」
「……何を調べたの?」
「アイツが本人かどうかを調べたのさ……。アイツの立場上……指紋やら網膜なんかの認証が有ってな……それはアタシと別れる前から、変更はされていないみたいだ。つまり、今の拓馬は間違いなく昔のアイツと同一人物だ。だけど……その中身は丸っきり別人みたいになってるんだ」
「……そう言う事なら、良い方に性格が変わったって事で……むしろラッキーだよね? クズからマメに尽くす草食系になったって話なら、良い話じゃん! 何だよ、やっぱりノロケじゃないか!」
神妙な顔で思い詰めた様に話す梨沙に、志穂は彼女の背中をバンバン叩きながら冷やかした。
しかし梨沙の表情は変わらず暗い。まだ志穂には話せていない疑念が、梨沙を苦しめている様だ。
「……本当に、それだけなら良かったんだけど……。志穂……今から話す事は、他言無用で頼む。……分隊の皆にもな……」
「さっきから、一体どうしたってんだよ……姉御?」
暗い顔をして、真剣に呟く梨沙に……流石の志穂も笑みを消して問い返す。
「……勿体ぶって悪いな……。だが、くれぐれも頼む……。いいか、話すぞ……? この前の国立美術館での作戦は覚えているな? そう、真国同盟のリーダーをふっ飛ばした、あのおかしなチビッ子達やら、関取みたいなロボが出た奴さ。……あの時アタシらは作戦指揮通信車から、応援を頼んだろう?」
「うん……結局、間に合わなかったけど……」
「その件、アタシの方でも調べたんだ。分る範囲でな……。あの時、確かに拓馬はアタシ等の要請を受けて、増援部隊の派遣を指示は出したみたいだ。だけど……その後スグに誰かの指示で、派遣は取り消されたんだ。それも巧妙にな……。
あの拓馬が……その事に気が付かない筈は無い。自分が出した指示だからな……普段のアイツなら、指示通りに動かない組織を放置するなんて有り得ない。つまり、アイツは増援部隊派遣が取り消された事を把握しながら、作戦を続行させたことになる」
「……オイオイ……何か、キナ臭い話だな……」
梨沙は淡々と気付いてしまった事実に付いて話す。志穂も話の方向性が、笑えない無い状況になって来て、思わず本音を漏らす。
「で、でも姉御! そんな事、何かの連絡ミスじゃ無いのか? 偶然が重なって腹黒大佐も気が付か無かったとかさ……。混乱した現場で良く有る事じゃん」
「……アタシも、自分が気が付いた疑問に対して……そんな風に、無理やり思い込んで……臭いモノにフタをして来たんだ……ずっと。
特に……あの小春ちゃんが戦った、模擬戦以降……おかしな事ばかりだ……。ドルジとか言う奴の時もそうだ。アレだけの事件なのに……適当な自衛軍情報部の対応や、気味悪い程におとなしいマスコミ……。あの作戦でも、結局増援部隊は、要請したけど来なかったよな?」
「……姉御……まさか……」
積み上げられた疑問点を整理する梨沙は。もう確信している事が有る様だ。志穂もそれが何か理解し始め、掛ける言葉が続かない。
「今回の作戦だって……何もかもが、おかしい。アタシ等、特殊技能分隊の担当は国立美術館と最初から決まっていた。そこにドルジとか言う奴の仲間が集まったのは何故だ? しかも……アタシ等より先に小春ちゃんを連れてな……」
「……確かに、アソコに小春ちゃんが居たのは……不自然だよな……」
梨沙の言葉に、志穂も同意し呟く。
「……アタシは作戦後、小春ちゃんに何であの場に居たのか聞いてみたんだ。そしたら小春ちゃんが言うには……玲人をリジェって奴と戦わせない事を条件に……そのリジェに連れて来られたんだとさ。しかも……あのリジェって奴に誘われたのは……何とアタシ等がブリーフィングをする前だった。
これが意味する事は、唯一つ……。そう、あの国立美術館の作戦自体が……最初から玲人を、リジェって奴らの仲間と戦わせる為だけのモノだったんだ」
「そう、か……そう言えば、空から飛んできた、オサゲのチビッ子……覚醒の儀が、何たらって言ってたな……」
真実に近付きつつある梨沙に、志穂は国立美術館の作戦時……舞い降りてきたアルジェの言葉を思い出す。
「ああ……そのアルジェって小さい子が言ってただろう、自分達はドルジとか言う奴の仲間で、アガルティアって国から来たとか……。それで真国同盟の連中は前座とも言っていた。
つまり、全てはお膳立てされてるって訳だ。アタシ等は完全に……奴らの手の平で転がされてる。そもそも、この分隊の設立自体だって……全ては玲人の為かも知れない。
いや、分隊どころか、……自衛軍全体や真国同盟……そして、この国までも……奴らの手が廻ってる……。恐ろしい事だけど、そう思えて仕方が無いんだ。そして、それは……奴らの“力”を考えれば……十分あり得る話だと思う……」
梨沙は確信に満ちた目で、自分の推理を明確に志穂に話した。
あのドルジも……アルジェ達も……詳しい事は分らないが、玲人との戦いを“覚醒の儀”と呼び……重要視していた。
全ては“覚醒の儀”とアガルティアの連中が呼ぶ、玲人との戦いの為に、全てを用意しているとすれば……梨沙が居る特殊技能分隊も同じ目的で用意されたものだと、梨沙は推察する。
(……特殊技能分隊が……玲人の“覚醒の儀”って奴の為に用意されているとなると……真国同盟との戦いすらも……。だとしたら……拓馬はやっぱり……)
梨沙の推理は止らず、押さえ付けていた疑問はどんどんと、恐ろしい確信に近付くのだった。
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