83)変化

 「…………!!」



 心の世界から戻り意識を取り戻した玲人が見た周囲の状況は驚くべき状況だった。


 「……こ、これは一体!?」


 ここは、確かに駐屯地内のクラブハウスだったが、さっきまで談笑していた特殊技能分隊のメンバーが全員意識を失い、倒れていたのだ。


 いや、分隊のメンバーだけではない。このクラブハウスに一緒に居た他の部隊員や店員達も倒れている。


 玲人は倒れている志穂や沙希、前原や伊藤達、分隊のメンバーやクラブハウスに居た他の人間の安否を確認した。


 幸い全員、呼吸に問題が無い為、玲人は倒れている全員を仰向けに寝かせ、あごを引き上げて気道確保を行った。


 「……皆、眠っているのか? 一体何が?」


 玲人が全員を仰向けに寝かせて気道確保を行った直後に、坂井梨沙少尉が飛び込んで来た。


 「皆! 無事か!」

 「坂井少尉! 此処に居た俺以外の全員がいきなり眠った状態になってしまって……」

 「ああ……此処だけじゃない……この周囲でも何人も眠ってしまって……玲人、この現象……私は拓馬から、聞いた事が有る……」


 「それは……仁那の能力ですね」

 「……そうだ、仁那ちゃんが持つ能力で起きる対象生物の昏倒現象だ。だけど、此処に仁那ちゃんはいない。一体どういう事だろう?……」

 「坂井少尉、俺自身と仁那の事について話したい事があります」


 玲人は自身に起こった“ある変化”と仁那と小春の事について、話す必要が有ると判断し梨沙に先程、玲人自身が体験した出来事について打ち合けた。



 「……玲人が会ったという父親によると、玲人に仁那ちゃんの能力が目覚めたって訳か。それで玲人自身が考えるに、その瞬間、偶然に能力が発動し昏倒現象が起こった可能性があると。そして、その鍵は小春ちゃんって訳か……確かにそれは急がないと拙いな……」


 「はい、坂井少尉。自分は一刻も早く、小春と仁那の状況確認に行きたいのです」


 此処まで聞いた梨沙は携帯端末を取り出し連絡を取った。暫く連絡を取り続け、そして玲人に呟いた。


 「……ダメだ……薫子に連絡したが繋がらない。一応、タテアナ基地にも連絡したが薫子に連絡が付かず大御門の私室はロックされ状況が分らんらしい。あのロックは生体認証式だからな……大御門家の人間しか解除できない」


 「……そう、ですか……やはり何か起こってるのでしょうか?……」


 玲人の問いに対し坂井は額に手を遣り考えていたが、顔を上げて玲人を見据え言った。


 「よし、分った! 此処は私が引き受けるよ。クラブハウスの外側で眠ってた奴らも、2、3発引っ叩いたらすぐに目が覚めたし、ここに居る連中も同じだろう。玲人は急ぎタテアナ基地に向かい、仁那ちゃんと小春ちゃんの状況確認をお願いする」


 「はい! 有難うございます。坂井少尉」

 「状況は私から拓馬に言っておくわ。並行してタテアナ基地に連絡にも玲人が行く事は伝えるよ。玲人なら大御門私室の生体認証ロックを外せるだろうし」

 「分りました、今から向かいます!」


 そう言って玲人は体を一瞬白く輝させ、浮かび上がった。


 「玲人! 状況分ったら私に連絡して! 私も出来るだけ早くタテアナ基地に向かうわそれと緊急時だから外部での能力発動は仕方ないけど、目立たない様に!」

 「はい、了解しました」



 そう言って玲人は超高速で飛び立って行った。



 タテアナ基地に向かいながら玲人は驚いていた。自信の飛行能力が大幅に増強されている事に。今迄の玲人の飛行能力なら駐屯地からタテアナ基地までは4~5分は要したが、今の玲人なら数分で辿り着けそうだ。


 また、飛行能力以外でも修一が言った通り、玲人の能力は大幅に強化されている事が自覚できた。しかしその事は今の玲人にとって嬉しい事などで無く、タテアナ基地に居る仁那や小春の状況を懸念させるだけだった。


 「……どうか無事で居てくれ! 仁那! そして小春!!」


 玲人は仁那と小春の事を強く案じながらタテアナ基地へ急ぐのであった。


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