76)貴方とやっと会えた

  小春は早苗から聞いた玲人と仁那の誕生についての経由を聞いて、衝撃の余り呟いた。


 「……そ、そんな事が……」


 そして理解不能な真実に小春は唖然としていたが少し幼くなった仁那が嬉しそうに答える。


 「でも、その“彼女”達って人達が居なかったら私は小春にも玲人にも、そしてお母さんにも会う事は出来なかった。だから有難うって気持ちしか無いわ」


 「仁那ちゃんの言う通りよ。私も“彼女”達に深く感謝しているわ。あの石に居た“彼”と“彼女”が助けてくれなければ、玲君も仁那ちゃんも生きる事は出来なった。それに多分修君も同じ。

 何故なら、仁那ちゃんが玲君と意識のやり取りをするでしょう? その時に微かだけど、修君の、あの人の暖かい気配を確かに感じるの。きっと修君も私と同じ様に玲君の心の中に生きてると思う。それも“彼女達”のお蔭。

 ……そして何より小春ちゃんに一番感謝しているわ。貴方は私や仁那ちゃんだけでなく“彼女”も救ってくれた。本当に有難う」


 「そうよ。小春が私を助けてくれなかったら私達だけじゃ無く玲人も、きっとどうにかなってたと思う。だから小春は私達にとって救世主だわ」


 そう言って早苗と仁那は小春に深く感謝する。早苗は小春の手を両手で握り、仁那は小春に抱き着いている。小春はそんな彼女達に慌てて返す。


 「そっそそそんな大層な事は……」

 「でも……玲君との事は別よ。貴方が玲君のお嫁さんに相応しいか、私がきっちり見定めます……」

 「お、お嫁さんだなんて……」


 「あれぇ? 玲君の事、本気なんでしょう? 仁那ちゃんの意識の中でずっとやり取り見てたわよ? ……あのガーネットのネックレス貰ったくせに……今更?」

 「仁那……この人、面倒くさいよ!?」

 「お母さん、小春をいじめちゃダメ!」


 

 「ふふっ」


 突然早苗がくすくすと笑いだした。


 「どうしたの? お母さん」

 「ううん、何でも無いわ。ただ……まさか、こんな幸せが私に残されていたなんて、嬉しくなったのよ」

 「……早苗さん……」


 「私は修君が殺された瞬間、世界の全てを呪ったわ。私は自分の事はどうでも良かった。でも善人の代表みたいな修君を理不尽に殺した世界が憎かった……

 修君だけじゃない。私のお腹に宿った大切な宝物まで奪った奴らなんて、そしてそんな連中が大きい顔する世界なんて滅んでしまえばいいって、あの時本気で願った。自分の中にあんな禍々しい感情が芽生えたのはあの時が初めてだったわ……」


 早苗は口惜しそうに唇を噛む。その姿を見た仁那が心配そうに早苗の手を強く握って早苗に語りかける。


 「……お母さん。もう大丈夫よ……」


 早苗は心配そうに顔を見上げる仁那の頭を撫でながら言った。


 「仁那ちゃんには本当に辛い思いをさせたと思ってるの……貴方達が生れた後に起こってしまったあの大爆発……アレは多分私の強い呪いが具現化したんだと思う。私はこんな世界なんて滅んでしまえ、って本気で思いながら死んじゃったから。

 ……その所為で仁那ちゃんに辛い思いをさせてしまった。本当にゴメンなさい」


 早苗はそう言って涙を浮かべて仁那に深く謝罪する。


 「そんな事、お母さんの所為じゃないわ。自分の力をコントロール出来なかった私の問題よ!」

 「……早苗さんは悪くないと思います。わたしだってそんな酷い目に遭わされたら、平気で居られないと思うから……」


 「有難う……仁那ちゃん、小春ちゃん。確かに私は最悪な最後を迎えたけど、それで終わりじゃ無かった。もう一度やり直せる事が小春ちゃんのお蔭で分った。

 もう一度、修君と玲君と仁那ちゃんと、そして小春ちゃん、貴方とで生きていきたい。もちろん“彼女”達ともね。その為に私は何でもするわ。今度こそ、私の大切な者達を守って見せる。

 ……それを邪魔するクソ虫共は全殺しにしてやる……必ず……ククク」


 「早苗さんかなり怖いです」

 「お母さん、言葉使い悪いよ……」

 

 小春と仁那に説教された早苗は“もちろん、冗談よー”などと軽く返す。そんな3人の頭に突然、声が響いた。



 “その子を私の前に連れて来て欲しい……”



 その声を聞いた瞬間、小春は思考が停止した。仁那の声の様に美しくて安心するだっただけじゃない。


 (……この声……わたし知ってる、よく、知ってる)


 突然響いた頭の中の声に、早苗が答えた。


 「あの声が“彼女”よ、さぁ奥の部屋に行き……うん? どうしたの小春ちゃん、なんでそんなに泣いてるの?」


 早苗に言われた小春は自分が滂沱の涙を流している事に気がついた。


 「……あれ? 何で……わたし……」

 「小春は、初めて私と出会った時もいきなり抱き着いて泣き出したよ」

 「私も仁那ちゃん通じて、その時の様子を見てたけど……あの時も凄く号泣してたわね。もしかして……花粉症?」

 「違います」

 「……冗談よ、小春ちゃん。そんなに睨まないで……まぁ、小春ちゃんの事は“彼女”と会えば何か分るでしょう」


 “みんなで手を繋いで行きましょう”


 そう言った早苗は小春と仁那と手を繋いで地下室の奥に歩いて行く3人。



 地下室の奥の壁に3人が到着すると突然、真白く光る大きな扉が現れた。


 「……それじゃ、入るわよ」


 早苗に促されて光る大きな扉を開けた。



 其処には先ほどの部屋と同じく真白い部屋だがとても広く大きな場所だった。輝く様な白い部屋は見事に調和された美しい緑に溢れていた。


 部屋の真ん中に真白くて巨大な台座が置かれており女性が寝かされている。その女性は人のものとは思えない美しさだった。

 

 美しいブロンドに真白い肌、堀が深く気品に満ちた綺麗な顔つき、女性らしいその体。その女性はこの世の美しい女性全てを並べても一際輝きを放つ、そんな存在感があった。


 ブロンドのその女性は美しい紋様が描かれたマントと白銀色の甲冑を纏っている。しかし女性は際立つ美しさと相反する様に儚げだ。確かに其処に寝ている筈なのだが、輪郭がぼやけている。存在が不確かで今にも消えてしまいそうだ。



 女性の姿を見た小春は突然抑えられない衝動に支配され、何故か涙が止まらなくなった。


 そして小春は女性の元に駆け寄り、その手を取ろうとしたが……掴む事が出来ない。そんな様子を後から来た仁那と早苗が眺めている。


 小春は大粒の涙をボロボロ流しながら、女性に言う。


 「……貴方を、貴方の事を誰より知ってる筈なのに、貴方に会いたくて、長い間、貴方を探していた筈なのに……貴方が分からない。御免、なさい……」


 小春はそう言って、目の前の儚げな“彼女”に縋り付きながら涙を流すのであった……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る