54)少女達の答え
「薫子先生。少し考えさせて下さい……」
そう言いながら、小春は大いに期待してしまっていた。もし、仮に自分が仁那になったら玲人は生涯自分の横に居るだろう。
だが、冷静に一度考える必要がありそうだ、とも考えたからだ。
「もちろんよ! 小春ちゃん。冷静に考えて欲しいの。でも危険は無いわ。少なくとも、小春ちゃんが死んでしまう事は絶対無いわ。食事中だったのにビックリする様な話ばかりでゴメンね。小春ちゃんにはもう隠し事は無しにしたかったの」
薫子は小春に知りたかった“全て”を話してくれた。もっともその内容は小春の予想を遥かに超えていたが……
衝撃的な話の連続で小春は食事も途中で残してしまった。薫子は再度小春に謝って、小春を自宅まで送り届けた。
家に帰ってから、小春は熱を出した。教えられた事実の衝撃が大きく、小春の気持ちの整理が追い付かない。お風呂も入らず、怠くて着の身着のまま小春はベットに倒れこんでしまった。
今日は特に仁那に会いたかった。今日の事について仁那の気持ちを聞きたかった。
それは薫子が言った、“仁那と小春が一つになる”についてだ。実は小春の中ではその答えは出ていた。
仁那を救えるし、仁那と玲人の二人とずっと一緒に居られるからだ。だが、仁那は小春と一緒になる事を嫌では無いだろうかと思ったからだ。
会って小春の気持ちを伝え、仁那の気持ちを聞きたかった。そんな事を願っていると、やがて小春の意識は遠くなっていった……
……意識がハッキリすると小春は望み通り、仁那の目の前に立っていた。
「いきなりごめんね、仁那。どうしても聞きたい事が有ったんだ」
「小春、貴方の方から来てくれて有難う。とても嬉しいわ」
「仁那……薫子先生から聞いたんだけど、体良くないって聞いた……」
「……そうよ、小春……近いうちに私は生きられなくなる……」
「仁那。わたしは何があっても仁那を守りたい」
「……ありがとう、小春。でも自分の事は分ってる。どうあっても私は助からない」
「聞いて、仁那。薫子先生から聞いたんだけど、仁那が助かる方法が一つだけある」
「小春との同化、でしょ。だけど、それは小晴に迷惑を掛けてしまう」
「違うの、仁那。わたしは仁那になりたいの……」
小春は、仁那に自分の気持ちを正直に答えた。何より、小春の中では仁那を何としてでも助ける事を決めている事や、玲人の事が本気で好きだけど、玲人は仁那しか見てない事、仁那が死ねば玲人も生きられない事より、仁那と自分が一緒になれば全て解決する事を伝えた。
「……という事で、わたしの気持ちは仁那と一緒になって、仁那と玲人君と一緒に居たい、一生ずっと二人と一緒に居たいの。この前仁那に言った通りよ。わたしは仁那を絶対助けて、玲人君と仁那とわたしの3人でずっと一緒に暮らすの……何故だか分らないけど……ずっとこうなりたかった気がするわ……」
小春の話を聞いて、仁那は大粒の涙をポロポロ零してお礼を言った。
「……ありがとう、本当にありがとう、小春……私もずっと……言えなかったけど、小春になりたかった……小春のお家で、陽菜ちゃんやお母さんやお婆ちゃん達と暮らしてみたい。
そして弘樹叔父さんの家で玲人と真紀さんとお菓子を食べながら大樹を抱っこしたい。それから、玲人と一緒に学校にも行ってみたい。歩いたり、走ったり、玲人が言ってたお寿司も食べたい。でもそれは我儘だし、小晴の邪魔になるかと思ってた……」
仁那は泣きながら自分の本当の気持ちを小春に伝えた。
「違うよ仁那。わたしは仁那になりたい。仁那になれば、わたしは仁那と玲人君とずっと居られるから。わたしの我儘でもあるんだよ。仁那こそ迷惑じゃないの?」
「私の気持ちはこの心の世界では隠す事も出来ず伝わる。知っているでしょう。小春、貴方が本当に私になりたいと思っている様にね」
「……ああ、よく分かったよ。仁那。あなたの気持ちがよく分かった。あなたもわたしになりたかったんだね」
二人の少女は微笑みながら、お互いの気持ちを伝えあった。ここで小春は有る疑問を仁那に聞く。
「……もしかして仁那がわたしになったら、わたしは消えちゃうのかな……どうしようも無いなら、その、仕方ないかな……って思ってたんだけど……」
「それは絶対ないわ、小春。そんな事は絶対にさせない! 私が貴方を消してしまうなんて絶対に望まない。だから大丈夫!」
仁那は力強く宣言する。仁那の中では、小春の消失は絶対に嫌だった。そんな事なら自分が消える覚悟だった。そしてその気持ちは小晴も同じだった。
「……まぁ、その時はその時で考えよう?」
「何、小春。その投げやりな答えは。私の決意、信じられないの?」
「いや、この心の世界ならよく伝わるよ。仁那が本気でわたしの事守ろうとしてくれる気持ちが」
「小春も同じ。本気で私の為に犠牲になろうとしている。でも大丈夫、私が小春の事を守ってみせる」
「ふぅ。これじゃラチあかないな。だったらお互いがお互いを守り合おうよ。わたしが仁那を守るよ。だから仁那がわたしを守ってくれる? ダメでもわたし、気にしないから」
「小春、だから自分が消えちゃう事前提にしないで! 本気で怒るよ」
「……御免なさい」
「いい、小春。私達は互いに大切な者の為に絶対に消えちゃダメなの。分った?」
「うん! 分った」
小春と仁那はお互いの気持ちを確かめ合った。二人の気持ちは同じである事が分り、小春と仁那は早く一緒になりたいと微笑み合うのであった。
小春と仁那は互いが一つになるという運命を選んだ。この道は小春が“全てを受け入れるという決断”を行った事より始まっていた。
これより二人の少女の世界は大きく変わっていく。いや、少女達だけの世界では無い。この世界の有り方を、変えてしまう程に……
此処で二人の少女の此れからを見る前に、玲人と仁那が生まれた時代に物語は移る。
二人の少女の此れからを見るには、玲人と仁那並びに薫子や弘樹並びに、安中や新見達がどう関わったか、玲人と仁那がどう生まれたのかを知る必要が有る。
そして玲人と仁那の父と母がどの様に死んでいったのかも……
14年前、それは第三次世界大戦の最中より舞台は始まるのであった――
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