35)戦い終わって

 無事、模擬戦が終了し特殊技能分隊の面々は駐屯基地の食堂で本日の反省会をしていた。


 「……まったく玲ちゃんの冷徹ぶりには志穂お姉さん泣いちゃったよ……」


 志穂は涙目で玲人に抱き着きながら文句を言っている。


 「ですが志穂隊員、あれは模擬戦ですし、志穂隊員も俺に大量に発砲を……」

 「私はいいのー!」

 「いいんですか……」

 「だから次の模擬戦では私にやり返したらダメよ! 大佐にして」

 「……そう、なんですか?」

 「いやいや玲人君、志穂さんに流されたらダメだよ」


 志穂と玲人のやり取りを聞いていた沙希が思わず助けに入る。玲人は戦闘以外ではどうも危なっかしいからだ。


 「ところで皆さん非常に粘り強い戦闘でした。前原兵長や泉上等兵はエクソスケルトンに作動不良が生じても、次の手を打たれましたし」

 「俺らは根性が売りだからな。エクソスケルトンも根性で動かしてるから」

 「ちょっと浩太! 私は違うからね。確かに諦めない精神性も大事だけど、それに答えるには幅広い応用技術が必要になるわ」


 玲人が前原と沙希を称えると二人もそれに満足して応えた。


 「伊藤曹長は対物ライフルからの長距離射撃に次いで、接近戦に持ち込まれるなどオールラウンドプレーヤーぶりに感嘆しました。レンジャー部隊としての経験が活きておられるのでしょうね」

 「確かにレンジャー部隊での経験は他で得難い物だった。しかし玲人君も本当に隙がないな。長距離からの狙撃も、近接戦闘でも君を揺るがす事は出来なかった。大佐が言っていた事は全て真実だった……」

 「いえ、まだ修行中の身です。自分が目指している完成形はまだ遠いです」

 「あれで……十分過ぎるよ」


 伊藤と玲人のやり取りを聞いて、沙希が思わず呟く。ここで前原が玲人に気になっていた事を聞く。


 「……なぁ玲人君。君のその能力は、どうして身に着いたものなんだ?」

 「俺も生まれた時から使えたので、その、良く分りません……」


 ここで黙って食事していた坂井梨沙少尉が口を出す。


 「前原……玲人の能力については秘匿次項になる。あまり聞いてくれるな。各位も同じだ。大佐が言った通り、この特殊技能分隊での事や、玲人の能力に関しては極秘事項だから注意してくれ」

 「「「ハッ了解しました!」」」

 「はーい」

 「……まぁ玲人の能力の事は自衛軍でもよく分からんのが事実だ。気にすんな」


 「……ねぇねぇ玲ちゃん。私の事も褒めてよ」

 「はい。垣内隊員の操る無人機は脅威でした。発見しにくく機動性も高い。昔に比べ無人機の性能が上がったとはいえ、良くお一人で操作できると感心しました。後……大佐を盾にするなど見事な裏切り行為を見せてくれました……」

 「だろー! 私くらいの天才に掛かればあんなもん普通だよー!」

 「……おいメガネ、最後の方は多分褒められてねーぞ。なぁ玲人君?」

 「……色んな意味で凄いな、って勉強になりました……」

 「見てみろよ、ダルマ! 玲ちゃんは私の凄さが良く分かってんだよ」


 そう言って志穂は玲人に抱き着き頬を摺り寄せる。


 「……玲人君。この眼鏡喪女に君は狙われているぞ」

 「狙われている……? 何がですか?」

 「……オイ、ダルマ……余計な事言ってんじゃねぇよ……」

 「黙れ。眼鏡喪女……お前が玲人君の貞操を奪おうとしているのは分っているぞ……」

 「あぁん? 何寝ぼけんてんだよ……気持ちはあるが……ダルマ、お前の貞操を“犬”で奪ってやろうか……?」

 「……返り討ちにしてやるよ」

 「ちょっと待って下さい! 何なんですか、この二人……坂井少尉も食べてばっかりじゃなくて止めて下さい」

 「……ほっとけよ、喧嘩するほど何とやらだ」


 また、おかしな空気になった志穂と伊藤の間に入った前原は梨沙に助けを求めるが、梨沙は基本放任だ。玲人は横でボーとしている。


 「……大丈夫なの? この部隊……」


 その状況を見ていた沙希が頭に手をやって呟くのであった。


 5人で雑談しながら食事をしていると、何やら玲人が固まり、額に手を当て考え込む。


 「…………」


 その様子に気が付いた梨沙が声を掛ける。


 「……どうした、玲人?」

 「はい、姉が小春と初めて直接会えてとても嬉しかった様です」


 仁那と玲人が心で通じ合っている事を知っている梨沙は特に不思議がらずに質問する。


 「……小春って言うのは薫子が言ってた女の子の事か」

 「はい。小春は姉の状態にも驚かず、抱き合って泣いて喜んだそうです。姉も本当に嬉しそうでした」

 「……良かったな、仁那ちゃん」

 「えぇ、小春には助けて貰ってばかりです。何か、礼をしないと」


 ここで梨沙と玲人の話を聞いていた沙希と志穂が興奮しだす。


 「ナニナニ、小春って誰? もしかして玲人君の彼女?」

 「誰だー! その泥棒猫は!」

 「いえ、彼女とかではありません。小春は俺と姉の共通の友人です。普段から姉にとても良くして貰っています」


 玲人の回答に沙希と志穂は興奮冷めやらず質問する。前原と伊藤はうんざり気味だ。


 「ねぇ玲人君! その子とは普段どんな風に過ごしてるの?」

 「そうですね。毎日送り迎えをしています」

 「毎日! 玲ちゃんと……そんな学生生活羨ましすぎ……」

 「それは玲人君がして欲しいって頼んだの?」

 「いいえ、小春の方から頼まれました。それと別な友人からも、護衛してやってくれって言われました」


 玲人の澄ました回答に沙希と志穂は顔を見合わせ今度は梨沙に小声で聞く。


 「姉御、その子はもしかして浮かばれない子?」

 「玲人君に気が有るけど、肝心の玲人君が何も感じてないって感じじゃない?」

 「……多分その通りだよ。ちょっと薫子に聞いたが、その小春って子は玲人に気が有るみたいだけど、玲人がこんな感じだろ? その子の気持ち玲人には全く伝わってないと思うな」

 「なんか、不憫な子ね……」

 「……その子は私と同族の匂いがする……」


 沙希と志穂の間で小春は不憫で浮かばれない子認定されてしまい、深い同情を得たのであった。

 

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