29)模擬戦-2

 ともかく、玲人は自分が検知した対象に接近する。まずはエクソスケルトン組の方に“走って”向かう事にした。


 但し玲人の走る移動は自身の能力により強化されており時速70kmの速度で移動していた。飛行すればその5倍以上の速度で移動できたが、玲人としては、様子見でありすべての能力をさらけ出すつもりは無かった。


 従って走って移動する事は玲人とすれば相当のんびりした移動だったが相対する方はそうではなかった。


 「時速70kmで移動!? 測定ミスではないの!?」


 志穂の無人機の偵察結果が4人に転送され沙希はエクソスケルトン内で叫んだ。


 「複数の無人機が同じデータを測定しているから間違い無い様だ。玲人君はオリンピックメダリストより速く走れる事になるな」

 「そんなレベルではないわ、玲人君の走行速度は戦車と同じよ。これじゃエクソスケルトンの機動性は優位とは言えないわ」

 「しかも3km以上連続で走っている。マラソン選手の3倍以上の速度で。玲人君はマラソンでも食っていけるな」

 「冗談ばっかり言わないで。この速度で移動されたら後、数分で接敵するわ。機動性では優位に立てないなら火力で圧倒しましょう」


 エクソスケルトンは自動てき弾銃と重機関銃とで武装されている。武装は状況によって対戦車ロケットやガトリング銃等に交換できる設計だった。その他対人用の軽機関銃が腕に内蔵されていた。


 「こちらから接近して威嚇射撃しましょう。浩太が後方で、ペイント弾で弾幕を張って私が回り込んで側面から捕獲するわ。幾ら彼の速度が速くても足止めされたら終わりよ」

 「了解、沙希。俺はこのまま彼の前方に出るから、お前は右側面から回り込んでくれ。常に垣内さんからの位置情報を拾っておけよ」

 「了解」


 玲人は前原と沙希のエクスケルトンが、自分の位置を把握して接近している事を額の隻眼を通じて感じ取った。


 (……正面からとサイドからか……俺の位置が知られているのは……志穂さんの無人機だな……先にそっちを黙らせるか)


 玲人は動きを止め、廃ビルの中に入り込んだ。無人機は上空から玲人の動きを監視していると判断したからだ。もっとも熱感知もされている可能性も高かったが、前原と沙希に目視で発見される事は避けたかった。


 廃ビルの中に入った玲人は隻眼に意識を集中し、無人機の位置を感知しようとした。


 (……3機、か。やはり仁那の様にうまくは出来ないな。生物ならあまり意識掛けずできるのに、対象が機械となると途端に検知しにくくなる……今まで仁那はどうしていた? ……そういえば仁那はエネルギーの扱いが得意だったな……そうか……物体を動かすには、そして何かをするにはエネルギーが必要……運動、燃焼、電力……そして意志……仁那はそれらを掴んでいたのか……俺がやると検知に時間が掛かるのは戦場では大きな弱点だ……使うなら本気で訓練しないと、だな……仁那の事を考えると……あまり、気乗りはしないが、そうとも言ってられないか……)


 何とか位置を特定した無人機に玲人は意識を定め、左手を差し出す。すると両手のリストバンドに内包してあるタングステン製の針が10本ほど浮かんで静止する。


 (……志穂さんが操っているのはダクテッドファンを搭載した小型無人機か……ならファンにニードルをぶち込めば……終わりだ)


 玲人は意識を定めてタングステンニードルを操作し、強力に打ち上げた。玲人が操作するニードルは認識した対象に対し自動で追尾し絶対に外れない。対象に命中させるという意志力で動かしている為だ。


 また、操作するニードルは玲人自身同様、意志力で強化され、質量と速度に比例しない貫通力及び破壊力を持っていた。玲人自身の能力で運動エネルギーを大幅に付加していたからだ。


 従って、上空300mに点在して飛行中の小型無人機にニードルを命中させる事等、造作もない事だ。意識し、そう願うだけでニードルは超高速で自動追尾し目標部分に正確に突き刺さる。


 “バキキ!”


 ニードルはほぼ同時に3機の小型無人機のファンブレードに正確に突き刺さり、ファンを破壊した。今回は敢えてニードルの貫通力を玲人は抑えた。高価な小型無人機の損傷を押さえる為だ。


 ファンを破壊された小型無人機は当然浮遊力を失い、真逆さまに落下したが完全に墜落する寸前に玲人が3機共小型無人機を能力で一瞬浮かして激突を防いだのだった。

 

 「ちょっと! ちょっと! どーいう事よコレー!」


 指揮通信車で3機の小型無人機を操作していた志穂は、突然小型無人機が作動不良になり慌てていた。この時代の小型無人機は高度なAIにより自立化が進み、複数の無人機を個人で操作する事は不可能では無くなったが、誰でも出来る訳では無く高度な知識と経験が必要だった。


 その点に対し志穂は、ただ無人機を操作するだけでなく極秘な筈の軍用無人機のソースコードを解析し自分なりにプログラミングして、最適化していた事より最低限のコマンドで操作出来る様にしていた。


 それにより志穂は更に多くの無人機を操作する事が出来た。その上で並行して無人機から得られる大量のデータを作戦中の部隊に発信していた。


 本来なら複数の人員が不可欠な作業を、志穂一人で対応出来た。その背景には志穂は一人でやり切る事を好み、他人の共同作業を拒んだ為だ。


 志穂にとっては自分の“おもちゃ達”がトロくさい他人に触られるのが嫌だったのだ。そんな志穂のボッチ体質のお蔭で軍としては大いに助かっていた。拾い上げた安中からすれば大儲けの為、内心大笑いだったがおくびにも出さない。


 安中は過去に志穂が犯したクラッキングなど大した被害では無かったが、それを実行した志穂の技術が何としても欲しかった。その為、超法規的な処置まで行って志穂と言う戦力を手に入れたのだった。その志穂が、突然の事態に大慌てだ。安中はその様子を見てニヤリと笑った。


(……流石は准尉、垣内隊員を慌てさせるとは。彼らも大きな刺激となるだろう)


 志穂は発生した事態を整理して状況を掴もうとしていた。いつもの毒舌など吐く余裕もない。一人真剣に呟きながら3機から得られたデータを元に、自分なりに解析に努めている。


「……3機同時にブラックアウト(操作不能)するなんて……単なる故障は有りえない。現に3機共カメラは生きてる……カメラからの映像では、高度300mから落下したのに、地面との衝突寸前に3機共落下が一瞬緩やかになった。そして3機共GPSより廃ビル屋上らしき所に綺麗に設置されている……これってやっぱり?……」


 一人ブツブツ言って冷静に状況整理した志穂は一つの答えを得て、隣に居た坂井少尉に答え合わせを求める。


 「……ああそうだ、垣内隊員。こんな真似が出来る奴は玲人しかいない。あいつはどうやったか分らんが、高度300m上空に居た絶対視認できない筈の無人機を同時に攻撃し、墜落させた。しかもご丁寧に壊さない様に気を使ってくれたみたいだ」


 「……まさか、まさか……此処までやってくれるとはね! あははは、エスパー玲ちゃん! とんでもないよ! さーどうしてくれよう……空からの監視は不可欠として……そうだな……よし! 攻撃は最大の防御なり! “クラゲ”は撃墜されたちゃったから、次は武装させた“犬”と“トンボ“で行こう!」

 

 そう言ってキーボードから矢継ぎ早に指示を出す。志穂が勝手に命名している“クラゲ”というのは玲人がニードルで撃墜した小型無人機の事だ。ダクテッドファンで浮遊する為丸いお皿のような形状をしている為、勝手に志穂が名付けた。


 “犬”と志穂が呼んでいるのは四足歩行型の無人機で、戦前から不整地での物資搬送用に研究されていた型式だったが、その後進化が進み時速50km程度で移動する事が出来た。また胴の部分に2本のアームが付いており、片方のアームには機関銃等が装備されていた。

 

 もう一つの“トンボ“はヘリ型無人機で、志穂は竹とんぼから勝手に“トンボ“としていたが”クラゲ“より飛行速度が速く、高い高度からの監視が可能だった。また、対戦車ミサイルやチェーンガンで武装されていたのだった。

 


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