22)秘密

薫子は小春に仁那と玲人の生い立ちについて順に話した。


   玲人と仁那が大御門家の実験で生まれた事。

   その際に二人の力が暴走し大御門本家が崩壊した事。

   元自衛軍の新見という男に生まれた瞬間から兵器として利用された事。

   その新見が真国同盟の首謀者であり、現在も玲人と仁那を狙っている事。

   そして玲人が仁那を守る為、自衛軍として戦っている事。


  最後に仁那の体は生れつき不完全で、もう限界が来ている事を話した。


 「……見ての通り、仁那ちゃんの体は不完全で生れつき必要な器官が無いわ。でも生きていられたのは、仁那ちゃんの特殊な能力のお蔭よ」

 「……特殊な能力?」

 「そう、他の生物からエネルギー? みたいなものを吸い取って生きていられるの。ただ受け渡しされるこのエネルギーの検知も計測も出来ないから14年前から推測で話されているわ」


 薫子は、小春を広い別室に連れてきた。其処は4~5匹の羊が居る部屋だ。広い部屋にワラが敷いてあり本格的に飼われている様子だった。


 「ここは、仁那ちゃんがエネルギーを摂取する為の家畜が居る部屋よ。普段はこのタテアナ基地の外部で放牧されていてローテーションで入れ替えているわ」

 「……仁那はこの子達をどうするんですか」


 「仁那ちゃんは他の生物からエネルギーを吸収するの。大丈夫よ、死んでしまう事は無いわ。気絶する位消耗させるけど、仁那ちゃんも加減が分かっているから、死なせてしまう前に止めているわ。

 弱った羊達はタテアナ基地の外部で治療と放牧で体力を回復して、此処に戻す様にしているの」


 「仁那は普通の食事をする事は出来ないのですか?」

 「残念ながらそうよ」

 「……そう、ですか」

 「何も食事だけではないわ。歩く事も、外に出る事も、仁那ちゃんには出来ない。それだけじゃない。一番の問題は仁那ちゃんの体が崩壊し続けているという事よ」


 「……崩壊……」

 「そうよ、貴方も見たでしょう? 彼女の体がボロボロと崩れて、また再生する所を。あれは急激な新陳代謝を繰り返している様な感じなの。急速に老化し、死に向かっている状況よ」

 「……」


 薫子は寄ってきた羊を撫でながら小春に仁那の状況を話す。


 「先生はわたしに言いました。“貴方だけが頼り”って。それはどういう意味ですか?」

 「それはね、貴方だけが仁那ちゃんを救えるのよ」

 「わたしは何をすればいいんですか?」

 「……不思議な子ね。躊躇(ちゅうちょ)も無く、自分の意志で仁那ちゃんを救いたいのね。恐怖や葛藤は無いの」


 「……わかりません。怖くないかと言えば嘘になります。でも今日、改めて仁那と会って、何か大切な事を思い出した様な、そんな気がしたんです。今のわたしの中では仁那を見殺しにする選択は有りません」

 「……玲君の事はどうするの?」

 「そんな事! わかる、わけないよ……だけど! だけど! わたしが……わたし、しか……」


 薫子の言葉に遂に小春は泣き出した。小春は仁那の為なら犠牲になるつもりだった。何故かは分らないが、其処は全く受け入れられた。


 だけど、玲人の事は別だ。玲人と離れる事を想像すると気が狂いそうになる。その事は自分の中では受け止められなかった。


 「御免なさいね。ひどい事言って。そして……有難う。心から感謝するわ」

 「……」

 「でも安心して。誰も死んでしまう様な事には、ならないわ」

 「え……」

 「早とちりしすぎよ。誰も死んで身代わりになってなんて言ってないわよ」

 「……な、なんだ。バカみたい……考えすぎちゃった……あはは、足が震えて……」


 小春は極度の緊張が解けて、足が震えて立てなくなり座り込んだ。薫子は座り込んだ小春を抱き抱えて何とか立たせた。


 「あらあら御免ね、誤解を招くようなこと言っちゃって。落ち着いたらお茶にしましょう」

 「は、はい有難うございます。先生」


 小春はすっかり安心しきった様だった。そんな小春の様子を見て薫子は微笑みながら別の事を考えていた。


 (そうよ、誰も死ぬ事はないわ。居なくなっちゃうかも、だけどね。でも今は言わない方が二人の適合率に都合がいい結果になりそうね)


 薫子は、仁那を救うと決めた日から何でもする覚悟だった。その為には、誰でも何でも犠牲にする心算だった。


 仁那は玲人の双子の姉だが、仁那は玲人と違って不完全な状態で生まれた。まるで初めから何か重要な部分が欠けているかの様だった。肉体的な部分ではない。霊的というか本質的な部分だ。


 そもそも仁那は肉体的な意味では数秒も持たずに死ぬ。重要な内臓器官を持たずに生まれているからだ。にも拘わらず生きているのは仁那自身の特殊能力により、他の生命から直接生命エネルギーを採取する事で生きているからだ。


 生まれてから多くの生命を“吸って”きた仁那だったが、元より重要な部分が欠けている為か、仁那は成長すると共に、徐々に崩壊が始まった。このままでは待っているのは完全な消滅だった。


 それを感じた薫子は、仁那に欠けている部分を補う“パーツ”を探した。それが適合者だった。“パーツ”たる者は肉体的に合えば誰でもいい訳ではない。

 

 それでは仁那が“吸って”きた数多の生物と何も変わらない。“パーツ”として適合できる者は仁那が生れながらに欠けている部分を補える者で無くてばならない。


 薫子はそれが仁那の精神的な部分、つまり霊的もしくは魂と言うものだと考えていた。そもそも仁那の存在は現代科学では存在自体証明できない。その生き方も能力も。だから、現代科学で認知できない分野こそ仁那に深く関与していると確信していた。


 過去に大御門家はそう言った部分を長く研究していた。オカルト関連だ。実は仁那と玲人が生れたのもその研究による偶然の結果だった為、薫子はそう言った分野と、現代科学を用いて仁那に欠けている“パーツ”を贄にした適合者から補い、仁那を生存させようとしていた。


 これが出来るのは現代科学に精通し尚且つ大御門家の知識を持つ薫子だけだった。唯一残された肉親である兄の弘樹は事故によって崩壊した大御門家を再建するのに必死だったし、そう言った分野に精通していない。


 また資金面でも弘樹からのバックアップも必要だったので、部下は多くいるが仁那に関する計画は概ね薫子1人で運営していた。


 仁那に適合する少女を探すため、地方財閥でもある大御門家の財力を使った。その一つが支援団体の“憩いの会”だ。


 あの会は大御門家現当主である、大御門弘樹が善意の為に作った物だった。薫子は財力を使って全国の少女の健康診断データを集め、仁那に適合しそうなケースを選び出した。



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