その7

 で、さらに放課後。


「昼間の話は、ちゃんと伝えておいたから。あとはしっかり教えてもらえ」


 どうしようかと思っている俺に川崎が言い、横をむいた。そこに弥生さんが立っている! ちょっと待ってくれよ。なんでそれで弥生さんがでてくるんだ?


「あのさ、みんなも誤解してるよ」


 これがまたどういうわけか、うれしそうな笑顔で弥生さんが言ってきた。


「私、恋愛の達人でもなんでもないし。そもそも、誰かと付き合ったことなんて、一度もないんだよ?」


「そりゃ、大泉さんが、俺の告白を断ったからでしょうが」


「俺も断られた。ただ、そのあと、ほかにも性格が良くてかわいくて、彼氏が欲しいって思ってる女子がいるからって、それで紹介されて」


「なんだおまえら、そうだったのか。俺は、どうしたら彼女ができるのかって、そういう相談を聞いてくれてさ」


 川崎たちが口々に言いだした。なんだかよくわからんが、弥生さんは恋愛マイスターだったらしい。


「べつに、あんなの、大したことじゃないでしょ。やさしくておしゃれで、一途で積極的な態度をとればいいってだけなんだから」


 相変わらず、余裕の笑顔で言う弥生さんだった。それはともかく、いまの俺って、背中が冷や汗でびっしょりなんですけど。


「まあ、そういうわけだから。大泉さんに教わって、その通りにしろ。そうすればかなりの高確率でなんとかなるぞ。俺らもそれで助かったんだし」


 青い顔の俺に川崎が笑いながら言ってきた。


「じゃ、がんばれよ」


 言って川崎たちが俺から背をむけた。


「え、ちょっと待ってくれよ」


 俺の声は悲鳴に近かったかもしれない。川崎たちが、不思議そうな顔でこっちをむく。


「なんだよ? まだなんか用か?」


「あのさ、俺は川崎たちに相談したけど。なんで行っちまうんだ」


「だって俺ら、これから彼女とデートだし」


「おまえの恋愛相談に乗って、彼女といる時間が減るのは嫌だしさ」


「それに俺らって、女子の気持ちなんて、結局はわからないからさ。大泉さんに聞けば間違いはねえぞ」


「あ、そうか。そりゃ、まあ、うん」


 告白したのが弥生さんだって言っておけばよかったな。心のなかで後悔する俺の前まで弥生さんが近づいてきた。


 そのまま、おもしろそうな表情で口を開く。


「私も、朱美さんに助けて欲しいってお願いしたのに、どうしてだか伸一くんがきたんだよね」


 うわ、痛いところを突いてきた。そういえばそうだったな。弥生さんが笑顔で俺を見あげてくる。


「そうね。まあ、とりあえず場所を変えましょうか。ここじゃなくて、ファミレスかどこかで、どうすればいいのか相談しましょう」


「あ、できれば、ラーメン屋がいいんですけど」


「ラーメン屋じゃ長居はできないでしょ? これからゆっくり、いろいろ話すんだからね」


「あ、それはその、はい」


 まあ、期間限定のフェアでご当地ラーメンをだすファミレスもあるし、それもなかったらスープパスタでも食べればいいか、なんて考えている俺の腕を、いきなり弥生さんがつかんだ。


「え、あ、何を!?」


「だから帰るのよ。まずはファミレスに行くんだから」


 言って、弥生さんが俺の腕をひっぱった。仕方がないので、そのまま一緒に俺も歩く。


「えーと、まず、言っておくけど、告白は絶対にOKすること。いいわね? これは命令だから」


 上機嫌って顔で弥生さんが言ってきた。


 俺のラーメン好き人生は、これからおかしな方向へ転がっていくことになりそうだった……

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ラーメン屋さん立て直し奮闘記 渡邊裕多郎 @yutarowatanabe

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