その3
「そうですね。じゃあ、つけ麺も、今日から試行錯誤してつくってみます」
「そうしてください。それから、いまはいいですけど、夏になると、どうしてもラーメンは売りあげが落ちます。だから、夏季限定の冷やしメニューのレシピも考えておくといいですよ。定番の冷やし中華に、冷やしラーメン、冷やしつけ麺、ざる中華、冷やし坦々麺くらいはあってもいいと思います」
「あのー」
弥生さんの手があがった。またわからない言葉があったらしい。
「今度は何かな?」
「ごめんなさい。冷やし中華と冷やしラーメンって、違うの?」
「冷やし中華はスープなし、冷やしラーメンはスープありだよ。もともと、冷やしラーメンは山形のご当地ラーメンでね」
言ってから、俺は少し考えた。
「これは、さすがに日高屋でも売ってないんだよな。まあ、東京だったら、喜多方ラーメンの坂内や小法師で注文できるから」
「あ、そうなんだ。それから、冷やしつけ麺とざる中華っていうのは?」
「冷やしつけ麺は、普通のつけ麺とは違って、つけ汁も冷やしてるラーメンのことだよ。ただ、ラードが固まっちゃうから、それはとり除いて、代わりに鰹節の香味油を浮かばせるって手が必要になる。あっちは菜種油でつくってるから低温でも固まらないし。それから、ざる中華ってのはざるラーメンのこと」
ざっくりと説明したら、弥生さんが納得いかないって顔をした。
「じゃ、ざるラーメンっていうのは?」
「中華麺を茹でて、冷やし中華みたいに水で締めて、ざるに乗せてだす。で、つけ汁は、つけ麺みたいなラーメンスープじゃなくて、ざるそばの汁みたいなあっさりした冷たい汁なんだ。実際にはごま油を浮かべたりして、少しこってりさせるんだけど。で、あとは普通に食べればいい。まあ、なかには、温かいつけ汁で食べるざる中華を売ってる店もあるから、絶対にこうなんだって言い切ることはできないんだけどさ。ちなみに日高屋でも、春ごろになると、期間限定で和風つけ麺っていうのが販売される。それから、このへんで有名な店だったら新宿の満来かな。歴史も古いし。これも興味があったら食べてみるといいよ」
「あ、うん。わかった」
「で、麺関係は、いまのところ、これでいいとして、だ」
言いながら、あらためて俺は皐月さんの前に置いてあるメニューを指さした。
「この、チャーハンなんですけどね。一種類だけじゃ、寂しいと思うんですよ。だから、カレーチャーハンと、チャーシューチャーハンをメニューに追加して欲しいんです」
「は?」
また弥生さんが不思議そうな声をあげた。
「え、何? カレーチャーハンって、チャーハンにカレーのルーをかけるの?」
「あ、そこまでしなくていいから」
俺は弥生さんに返事をして、皐月さんのほうをむいた。
「ただ、チャーハンをつくるときに、カレー粉で味付けすればいいだけだから。で、メニューに『お子様も大好きなカレー。そのカレー粉で味付けしたチャーハンです』なんて書いておけばいいです。もちろん写真つきで。写真がないと、いまの弥生さんみたいに、カレーのルーが乗ってないなんて言いだすお客さんがでてくる危険もありますから。あと、カレーチャーハンのレシピはネットで簡単にでてきます」
俺の説明に、やっぱり驚いた感じで皐月さんがうなずいた。
「あの、はい。わかりました」
「それから、チャーシューチャーハンは、単純に、一口サイズに切ったチャーシューを多めに入れてチャーハンをつくってくれればいいです。で、最後に、チャーシューを二、三枚、上に乗っければ、普通のチャーハンとの違いも強調できますから。あと、ボリュームは、半チャーハン、普通盛り、中盛り、大盛りの四段階でだしてください。これくらいやったら、お客さんも自分の腹の減り具合で好きに注文できます。それに、料理の種類も増えて見えますから、メニューも賑やかになりますし」
「ああ、わかりました」
「あと、チャーハン関係で、もうひとつ」
俺はここで、ちょっと口調を変えた。相変わらず、皐月さんが真面目な顔でこっちをむく。
「なんでしょうか?」
「実は、マヨネーズを使って欲しいんですよ」
「え」
これで皐月さんも表情が変わった。まあ、申し訳ないけど、これも仕方のないことである。
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