(二)

 豊永晴雄は市の郊外に建つ、築四〇年以上の古い二階建てアパートを訪れていた。

 二階の「佐川」と書かれたポストの脇の玄関の前で立ち止まると、豊永は玄関ドアを二度ノックした。

 すると部屋の中から何かしらの物音が聞こえた。大きい物音ではなかった。床板を踏んだときの木の板がしなるときのような音が聞こえたのだ。

 それは小さな音だったので、気のせいだったのかもしれない。しかし豊永にとってそれは無視できない音だった。ドアをノックした直後に聞こえた小さい音は、部屋の中に誰かがいることを示唆している。


(続く)

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