第89話 親バカにゃのね

「ファオランはな。

 美人でスタイル良く育ったぞ。

 あのドレスから真っすぐ伸びた足。

 あんなの見たら若い男ならヨダレを垂らさずにおれんのだ。

 なのにアイツはそーゆー事が分かっておらん。

 アイツが行方不明になってどれだけ心配したか。

 ろくでもない男にどうかされてるんじゃないか、と気が気でなかったぞ」

「旦那様、落ち着いてください」


「あんな、良い娘を……

 ウチに来てる商人志望の若い男程度に任せられるか!」


ジュアンさんはメッチャ興奮してるわ。

少し前までは、商人としての企み深い雰囲気だったのに。

現在は……タダの娘を気にしすぎる父親ね。


「だいたい図々しいと思わんか!

 ファオランと付き合えば、ジュアン商会の次期会長の座と美しい女が手に入る。

 そんな企み許せるか!

 ファオランが欲しいなら、一国一城の主になってから来い」

「…………

 ダンナ様、誰もファオラン様をそんな企みで狙ったりはしていません」


「ちっがぁーうぅ!

 シンイー、お前は女だから分かっておらんのだ。

 ファオランを見てる男どもはみんなそんなコトを考えてるのだ。

 私には分かるのだ。

 …………なぜなら私も若い頃はそんなコト考えてたからな。

 美人で家柄も良い女捕まえて、金と女、一挙両得ウハハハハ。

 若い男なぞみんなそんなモノなのだ」

「……旦那様……」


シンイーさんは呆れ顔でタメイキね。


「とにかく!

 あの娘に釣り合うにはそんじょそこらの男ではイカン!

 そうなのだ。

 それこそ次期ペルーニャの皇帝くらいで無いと。

 そうでなければファオランに相応しいモノか!」


あああああ。

つまりジュアンさんは、真の狙いとか、にゃんとか大層に言っていたけれど。

要するに親バカにゃのね。

そうにゃのね。

にゃんだかもうバカバカしくにゃっちゃう。

もうわたしテントに入って寝るわ。


その瞬間。

段梓豪ジュアン・ズーハォさんの後ろに誰かいた。

わたしにすら気付かせず忍び寄る存在。


「ジュアン会長。

 アザム団長に組してくれるのは良い」


その存在は白刃をジュアンさんの首筋に突きつける。

鋭い刃物。

自分の喉に刃物があてられたのが分かって、ジュアンさんが息を呑む。


「なっ?!

 ……何者だ?……」

「娘と結婚か、それも別に構わない。

 だが、あの方が次期皇帝などと変な噂を撒かれるのは困る。

 アザム団長は争いを好まない」


そんな事が出来るのはもちろん。


「ジュアン会長、約束しろ。

 アザム団長と前王の血筋の話はこれ以上口外するな。

 ペルーニャでは勿論、チャイニャに帰ってもだ。

 もしも、そんな噂が何処かから広まってみろ。

 拙者が必ず、貴様の背後に現れてその首を斬る!」


護衛団3番隊隊長イルファンさんだった。

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