第39話 ザーヤンテ

「……では拙者はどうしたらいいのだ?」


天井に潜んでいるつもりだったらしき男は諦め悪い。



「その辺に座ってれば、いいでしょうがーー!」


「……先程まで座っていたが……

 椅子には慣れていなくてな。

 まったく落ち着かなかったのだ」


イルファン隊長……

確かに隅の方に座って、縮こまってるとは思ったけれど。



「いくら何でも椅子に座るのに慣れていないって……」


エステルちゃんが言うわ。


「ホントだと思うよ。

 僕もイルファン隊長とは長い付き合いだけど。

 椅子に座ってるの見たのは、さっきが初めてだね」


エラティ隊長は断言してる。

ホントのホントに特殊にゃ人にゃのね。

護衛団3番隊隊長イルファンさん。


ステュティラちゃんもさすがに呆れたみたい。


「……オジサン、アンタって。

 いいわ、好きになさい。

 だ・け・ど。

 そこの天井からこっちを見てるのだけは、ヤ・メ・テ!

 こっちが落ち着かないわ」




さて、荒野を砂海の小型船ニャビールジャーエヒは進んでいる。

その先に見えてくるの。


青い流れ。

水だわ。

エステルちゃんたちは大河ザーヤンテと呼んでいたわね。

確かに広い。

日本で言うと……荒川の3倍くらいはあるんじゃにゃいかしら。


舵を握ってるライールさん。

チラリと船の横に視線をやるの。



「エステル……

 あの船の外に居る人に中に入るよう言ったらどうだ?」


「ええっ?

 父さんが言ったらいいじゃない」


「……私はあんな変人はニガテだ。

 何を考えてるのか、サッパリ理解出来ない」


「そんなの……アタシだって分かんないよ」



見かねたのか、エラティさんが船のヘリへと近付く。


「イルファンさ~ん。

 そろそろ船の中へ入りなよ。

 もう河の中へ着水するってさ」


そこに出ていたのは人間の足。

足の先を船のヘリに引っかけて、表にぶら下がっていた人間が上半身を持ち上げる。


「……そうか。

 しばらく他人の目線から姿を消していたからな。

 落ち着いたぞ」


「良かったね」


イルファンさんよ。

彼は、船の下に姿を隠していたの。

どうやって船底に掴まっていたのかしら。

わたしは猫のツメで船壁に掴まれるけれど。

人間にはカンタンじゃにゃいハズだわ。


砂漠の途中までこの船に同乗していたけれど、誰にも気付かれていにゃかったイルファンさん。

ひょっとして……こうやって船の下に掴まっていたのかしら。

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