その5 幕間

第66話 後で聞いたおはにゃし

『虎タル』さん『逃げ足のグレイ』さんから後で聞いたおはにゃし その1


わたしが森の広場を抜けて、泉へ向かっていた頃。


「ケガ人だ。

 ケガ人が運び込まれて来たぞー」


「そうか、来たか。

 よし私が診察するぞ」


白衣を着たトーヤーさんが飛び出して行くわ。


「ケガしたのは何処だ?

 私が見てやろう」


「おいトーヤー。

 なんで剣の刃先を俺の身体に向けてんだよ。

 やめろ、やめろ!

 オマエ、薬草の知識は有るけど。

 医療なんかしたコト無いだろ。

 バカ!

 よせ。

 おーい、パルミュス。

 トーヤーをなんとかしてくれー」


もちろん、そんな場面ばかりじゃんにゃいわ。


エステルちゃんは蒼褪める。

アンズーの爪で大きく腕を斬られたケガ人。

血がドクドクと流れ出す。


「とにかく血止めだ。

 腕の付け根を縛って、これ以上血が流れないようにするんだ。

 おい、新人手伝ってくれ」


「……は、はい」


「よし、いいぞ。

 傷口に消毒液を掛けたら、清潔な布をあてて上から包帯で巻くんだ。

 出来るな」


「分かりましたっ!

 やります」




「くっ、ヴァウーザカの毒にやられたのか?!」


「早く中和剤を!」

「このペースで薬を使っていたら、足りなくなるぞ」


「街の薬屋から大急ぎで買って来い」

「キミ、行って来てくれ」


「え、えええ? アタシ?」


指名されたのはステュティラちゃん。


「いいか、ヴァウーザカの毒の中和剤だ。

 そのものが無くても心臓麻痺に効く薬を」


「……お金そんなに持ってないわ」


「護衛団に後で請求回すように言えばいい!」

「いいか、大急ぎだぞ」


「分かったわ、行ってくる」


ピューっと走りだすステュティラちゃん。



「ヴァウーザカの毒だな。

 ……ならこの薬草で……」


現れたのはトーヤーさん。

治療してる人に葉っぱを渡す。


「これで大分毒の効果は抑えられるはずだ。

 出来るだけ噛み砕いて飲みこませるんだ」


「分かった」


「トーヤー隊長、こっちにもくれ」



「マズイ!

 毒が回ってる。

 意識がもう無い。

 心臓麻痺を起こしかけてるんだ!」


その声を上げた人の前には倒れた男の人。

顔が紫色に。

手が無意識にうごめいて、胸の辺りをまさぐる。

心臓が苦しいような動作。


トーヤーさんが薬草を手で引きちぎって自分の口に放り込む。

口の中でモグモグ咀嚼。

そして倒れた人の前にしゃがみ込む。

紫色した男の顔を掴んで自分の顔を近づける。

そのまま口と口をくっつけるの。


「……トーヤー何を?!」


「……はぁっはぁ……

 口移しだ。

 無理やり薬草を飲み込ませた。

 間に合ってくれると良いが……」


…………

見ていると男の人の荒かった息が落ち着いてくる。

胸を抑える苦しそうな仕草も静まり、腕から力が抜ける。

紫だった顔色が徐々に普通の肌色に。



「……良かった」

「やった、間に合ったぞ」


「さすがだ。

 トーヤー隊長」


拍手をしたり、口笛を鳴らすような人もいる。

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