第56話 虎タル

「エステルくん、ステュティラくん。

 君らは新人だからね。

 ホントウに現場に慣れるため来てもらったんだ。

 見学くらいに思ってくれ。

 私のそばは離れない様に」


「はいっ。

 分かりました、トーヤー隊長」

「はーいっ、わっかりましたー」


同じ言葉でも響きが全然違うわ。

エステルちゃんは、マジメでやる気に溢れてる。

ステュティラちゃんは支援て立場が不満にゃのかしら。

やる気のにゃさが声にこもってるわ。


「何故、私はここにいるんだ?!」


あら、少し太めのオジサマ。

アントナンさんも居るわね。



さて、どうしようかしら。

エステルちゃんのコトも気ににゃるんだけど。

猫耳幼女神バステト様に頼まれちゃったのよね。


ニャーヒードの森の中心部、泉を調べてくれ

って、にゃにか原因が有るらしいのよね。


この後方にはトーヤーさんもにゃんだかやたら頼もしいパルミュスさんも居るわね。

わたしは討伐隊の本隊、エラティ隊長のトコロに行って見ようかしら。

違うわ、エラティさんは目的じゃにゃかった。

泉の方角へ向かうのよ。



「アネさん、どちらへ?」

「俺も行きやすぜ」


ええーっ?!

何時の間に?


ボスのトラ猫と片目の灰色猫がいつの間にか追いついて来てる。

木の上にいるわたしに呼びかけるの。

ここまで来ちゃったの。



「にゃにしてるの?

 もう街の外よ。

 アナタたち、あの街を仕切るボス猫にゃんでしょ。

 街のにゃかにいにゃきゃダメじゃにゃい」


わたしは木の下に小声で呼びかける。


「まあ、アッシも街の外に出るのは初めて。

 緊張してるんでやすが。

 アネさんの為にゃらば、たとえ火のにゃか水のにゃかですにゃ」

「もちろん、俺とてみゃー様の片腕のつもりですみゃ。

 この『逃げ足のグレイ』

 お力ににゃりますぜ」


ううーっ。

このまま森まで着いてくるつもりかしら。

あそこは魔物ダェーヴァが溢れてるのよ。

街のネコが着いて来ちゃったら危険じゃにゃいの。

どうしようかしら。



「いーい? ふたりとも。

 あにゃたたちの心意気は分かったわ。

 そこでお願いがあるの」


「ヘイッ、アネさんのためにゃらば」

「にゃんでもお力になりやす」


「アネさんって呼ぶにゃー!」


わたしはボス猫の顔を引っかいておく。

ちゃんと言っておかにゃいと、いつの間にかズルズルとアネさんって呼ばれちゃうわ。



「んで、『逃げ足のグレイ』とボスさん」


わたしは再度二匹の猫に語り掛ける。


「みゃー様、俺の名前覚えて戴けたんですね。

 この『逃げ足のグレイ』感激ですぜ。

 天使サマに覚えて戴けるにゃんて」


「天使サマって言うにゃー!!」


わたしはもちろん、灰色猫の顔も引っかいておく。



「ズルイ。

 アッシも、アッシも。

 アネ……じゃにゃかった、みゃー様。

 名乗りが遅れて申し訳にゃいっす。

 この界隈を仕切ってやす『虎タル』ってもんで」


虎タル……

虎はもちろん、トラ縞の猫だからよね。

とすると……

丸々と太ったトラ猫。

身長も高いけど、それ以上にお腹周りもおおきいわ。

樽みたいにゃ体形。

そのままね。


「気軽に『虎タル』って呼んでくだせぇ」


あにゃたもあまり誇れるようなにゃまえじゃにゃいと思うんだけど。

にゃぜか、胸を張ってにゃのってるわね。

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