第122話 アニメ①

 そこにアイツ等が居る。

 それだけで落ち着かない。

 いや、なんか、お腹の調子が悪くなって来たぞ!


 クソッ!


 オレは、勇者だ!

 もう、PTSDなんか克服したハズだろ?

 違うのか、オレ!!


 アイツ等、護道と生徒会長、笑ってやがった。

 気持ちの悪い笑顔で笑ってやがった。

 なんで、あんなヤツ等と一緒に居るんだ!


 早乙女に紫苑!


 特に早乙女!

 お前の何を信用したらいいんだ?

 お前、昨日の事、ウソだったのか?


 次に、紫苑!

 お前、絶対に救ってやるからな!

 お前の横に、もう、護道なんか居るのを見るのはイヤなんだよ!

 なんか知らんが復活した護道には、この後すぐに引導を渡してやる!


 怒り、この感情で、PTSDを消した!

 もう、腹は痛くはない!

 よし!


 しかし、あいつ等は、手を組んだりはしていなかった。

 だが、コーラとかを持ってはいたな。

 弥生さんみたく、Lサイズとかは無かった。

 チュロス、護道も3本持っていたな。

 早乙女とか紫苑とか、可愛い服装をしてたよな。

 ピンク主体のコーデが紫苑で、薄い黄色を基調にしたコーデが早乙女。

 二人とも、春めくコーデ?で、少し露出多めの可愛いヤツ。


 オレは、先程見た彼らの様子を思い出しながら、状況説明を心の中で行った。

 そうだ、こういう時は、状況を心の声で言葉で、説明してみる、だ。

 客観視が出来れば、もう、心は冷静でいられるから。


 そんな事を考えていた時もアニメの話は進んでいく。


 ◇

 以下、アニメの話。


 真一とシオリはイチャイチャするくらい仲が良かったのに、すれ違いや勘違いがあったりして、次第にあまり話をしなくなった。

 そんな時、イケメン転校生がやって来て、そいつがシオリやクラス委員のユカリ、シオリの親友のアカリと仲良くし出す。

 そのイケメンは、シンジと言った。


 シンジは、同じく直ぐに、イケメンで運動神経グンバツのケンジと仲良くなり、この5人はクラスのカースト最上位を形成し、クラスのみんなを引っ張ると同時に、いつも仲良くするようになっていった。


 真一は、彼等とは一線を引いたかのように、彼等とはツルまないし、その輪に加わろうとはしなかった。


 明らかに真一は、自分の気持ちを隠し、シオリがイケメン達と仲良くするのを仏頂面で一瞥するだけで、わざとシオリから距離を取るようにしていた。


 このまま関係悪化で寝取られてしまうのかと思いきや、ある事件が起こる。

 彼女達5人が歩いていたら、トレーラーが突っ込んできたのだ。

 その時、偶然にも最後尾のシオリの少し後ろを歩いていた真一は、急いで走り寄ると彼女を突き飛ばし、自分が犠牲となった、かに見えた。


 彼女は、その時、大きく目を見開き、身体を突き飛ばされてびっくりした表情を見せていた。

 真一にとって、それが、現世で見た最後の映像だった。


 真一は、実写版と違い、その時、魔族領へ召喚され転移したのだった。

 そして、また、その時、そこに居た5人も王国へと転移したのだった。


 これは、たまたま、偶然に同時期に召喚術が行われたせいでもあり、また、そうでなければ成功しなかったともいえる。

 その詳しい説明は、マンガを読めという事なのだろう。


 異世界で、真一はシンに、シンジもシンという名になり、そこは実写版と同じだ。

 この設定は、元々が「二人のシン」という題名だったことに起因する。


 魔族のシンは、姉と義兄、魔獣王に大魔導士のじじいといった面々に鍛えられた。

 姉と義兄は、特に厳しく容赦が無かった。


 シンは、次期魔王になるべく召喚されたのだ。

 そのために、厳しく鍛えられた。


 他方、クラスメイトの5人は、洗脳教育を受けることで転移前の記憶が薄れ、更に服従の指輪と首輪により、王国に都合の良い勇者と聖女として、厳しい訓練を受ける。

 表立っては、丁重なもてなしを受け上級貴族待遇であったが、実のところは手駒のひとつに過ぎなかった。


 5人は、訓練を重ねることで絆を深め、シン(シンジ)は積極的にシオン(シオリ)にアプローチをし、シオンは次第にシンとは恋人としての感情を持つようになっていった。


 そうして、5人の訓練中に、実写版の時のようなシオリと真一の邂逅があった。


「助けて~~~!!」


 シン(真一)の居る近くの森の奥から助けを求める声が聞こえた。

 シンは直ぐにそこへ行くと、中型のトカゲ型魔獣に襲われている人間族を助けた。


「大丈夫かい?」

 ――――シオリに似てるけど、ムネがデカいな?

 召喚補正というものがあり、容姿が少し変わることがあるのだ。

 それは特に、自分が劣等感を抱くモノに働くらしい。

 と、そんな事は何も知らない二人だった。


「えっ、あ、ありがとう……」

 ――――角があるわ!この人、魔族なの?でも、なんか懐かしいような?


「君、こんな所で何をしてたの?」

「ちょっと、訓練を!」

「うん?訓練?」

「そうです。わたし、強くならないといけないから」

 ――――何か事情があるみたいだな。


「あの、君の名前は?」

「わたし、シ」

「危ない!!」(シンジ)

「うわっ!何をする!」(真一)


「おまえ、魔族だろ!その角を見れば一目瞭然だ!」


 ――――一目瞭然いちもくりょうぜんだ?これって、シンジが良く使ってた四字熟語だ。それに、こいつ、シンジに似てるようなイケメン……。


「違うの、シン!この人は」

「うおっ!!」

「きゃっ!!」

 この時、倒れていた魔獣が最後っ屁の魔光線をその眼から発した!


 その光線はあらぬ方向へ発射されたので、シンジとシオンは事なきを得たが、その隙にシン(真一)はどこかへと姿を消していた。


「大丈夫かい、シオン」

「うん、大丈夫、ありがとう!」

 そう言って、シン(シンジ)に笑顔を見せるシオンだったが、なぜか、救ってくれた魔族の青年?の面影が心より離れなかった。


 一方、シン(真一)は、魔族領の本拠へと転移して帰って来たが、あのシオリに似た顔がどうしても気になるのだった。

 因みに、シンの角は疑似角であり、次期魔王候補に角が無いと箔が付かないからという理由だった。


 ◇


 ここで、小休止となり、その間、ボカロ曲が流れ、アニメのキャラ達が画面で歌い踊っていた。

 ヲタクの人たちは、声援を送る。


 オレは、弥生さんと席を離れ、トイレ休憩に行った。

「弥生さん、気がついてたんでしょう?」

「うふふふふ、なぜわかるの?」

「勇者ですから・・って言う方が良いですか?」

「そうね、その方がありがたいかな?うふふふふ」


「だったら、なぜアイツがあのような状態でここに来てるのかってのを知ってるんですね」

「うふふふふ、さて、どうなんでしょう?」


「弥生さん、その辺で、もう止めませんか?オレには知る権利があると思いますが?」

 弥生さんは、スウッと目を細めるのだった。



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