第115話 聖女の二人

「・・・・そういう訳か。早乙女、だったら、紫苑はなぜ付き合うことになったんだ?」

「それは・・・・」

「紫苑はね、護道の告白にOKしたのよ。それも、クラスのみんなの前でね。それに、香織は、その時、祝福をしたよね。しかも、誰よりも早く」

 ユミは、それまでの仲の良さを帳消しにするかのような発言をし、早乙女を冷ややかに見るのだった。


 なんだ?

 なぜ、ユミって、こうも相手のことをズケズケと言える。

 やっぱ、こいつはお嬢様だよ。

 良くも悪くもな。

 だが、その発言、事実なら真相を知りたいぞ。


「わたしは、紫苑がずっと悩んでた事を知ってるわ。村雨くんのことをなかなか諦めきれないし、一方で、妹の事情から護道との関係も仕方ないと、自分で割り切ろうと頑張ってた。もう、それが何年も続いてたのよ。護道とのデートも、最初は嫌だったようだけど、中3くらいになると、あまり愚痴を言わないようになってたわ。私は、護道は性格的にもマシになってるし、人気も男女ともに高いから、そんなに彼が悪いヤツとは思ってなかった。それは、紫苑も、段々とそう思ってたと思うのよね。そして、この前、みんなの前で告白を受けてOKした時、私は彼女が遂に決心を固めたって思ったわ。彼女はずっと悩んでたから、高校生になったら、私と同じで、村雨くんの事を忘れようと考えてたと思うの。だから、そんな彼女の決意に私は応援をしたかったのよ」


「ユミ、お前、知ってたよな。護道には裏があるって事を。なぜ、ずっと言わなかった?お前だったら、紫苑が護道と付き合うのを止められたんじゃないのか?」


「なんで?なんで私が止める必要があるの?カズくん、何か勘違いしてるんじゃない?」


「うん?勘違い?どういうことだよ?」


「だって、わたし、紫苑のこと、嫌いなんだもん」


「うん?・・えっ?そうなのか?てっきり、オレは3人とも仲が良いって思ってたぞ」

「そう思うのは自由よ。別に、そう思ってくれてても構わないわよ。でもね、告白にOKしたのは紫苑だし、紫苑が決めた事よ。護道は、紫苑に対しては優しかったから。護道はね、ホントに紫苑に惚れてたと思うのよね。それは、彼を調べている私には、簡単にわかったわ。彼は、紫苑以外の女の子とは身体の関係を迫るのよ。実際、何人もの子とそういう関係になってるし。でもね、紫苑とはピュアな関係なわけ。決して、自分の欲望を前面には出さなかったのよ。それはそれで、紫苑も、彼の真摯な様子にほだされたんじゃないの?」


「ふん、そうかよ、だがなユミ、お前、まだ本音を言ってないよな」


「・・・・・・・・・」


「ユミ、あなた、紫苑が嫌いな事、薄々は知ってたけど、そこはお互い様だって思ってた。紫苑もユミの事を、何となく苦手そうだったし。でも、本音ってどういうことよ?」


 こいつ等には、仲違いとかして欲しくないな。

 でも、オレも、ここはユミに言っておくことがある。

 そこは、勇者として、これからもある事だし、言わないといけない。

 オレの心が言えと、なぜか言ってくるんだよ。


「ユミ、お前、オレに言ったよな。それと同じことを早乙女には言ってないって事か?だったら、まずは、早乙女、お前に訊きたい。演技をしてたって言ったよな。それは、いつからの事なんだ?」


「それは、あのLHR(ロングホームルーム)の日の、えっと、お昼休みだったわね」

「うん?そうか、それって、オレに指輪を投げた後の事なのか?」


「ごめんなさい、わたし、まだその時は、あなたのことを誤解してたの」(早乙女)


「私も、あれはマズいって思ったわ。香織が可哀想になって、予定とは違うけど、護道の悪だくみを喋ったの」


「うん、だから、あの時、とても大変だった。カズトは女の敵だって何度も心の中で言っておかないと、演技なんかできなかったわ」

「そうよね、香織はあの時、そうでもしないと本音が出そうで、そういうように暗示を掛けなさいって、演技指導したわね。でも、カズくんに香織たちがやり込められたのは、予想外だったわ。流石は勇者カズくん」


「おいおいおい、ちょっと待て。早乙女はオレにやり込められて、スゴイ感情的になってただろ。そしてオレに怒りをぶつけて来たよな?おかしくないか?そこまでする?」

「もちろん、するわ。そう指導したから」

「もうユミ、それはちょっと違うよ。全てはカズトの為だってことで、私は敢えて、カズトの敵役かたきやくをしたの。そしたら、ユミが言ってたようにはならなかったわ。まさか、やり込められちゃうなんて。それで、このままではいけないって思って、必死だった。もうなんか、カズトの事を考えると、あの写真の映像がちらついて、それに、私、言い負けそうになって、ちょっと腹が立っちゃって、それで気持ちがぐちゃぐちゃになったの」


「そう、香織って負けず嫌いだからね」


「むむむ、そうだったのか?だったら、オレは今度はユミに訊きたい。まず、早乙女が怒った理由だが、それはあの写真を見たからだってことを、お前は言ってたよな?なんだか、話が違うんだが?」


「うーーんと、そのような事は言ったかもしれないけど別に間違ってはいないわ。ちょっと良く想い出してみなさいよ」


 オレは、記憶を辿った。

 あれは、たしか、この前、ユミとここへ来た時だな。

 あの時も、ナポリタン大盛りだったよ。


『クラスラインにあなたのエッチな画像・・女の子のムネを触ってる画像とか、キスしてる画像とか、その、女の子のパンツを被ってる画像とかがちょっとだけ載ったのね。たぶんだけど、あの時、そんなのを見たから、怒ってるんだと思う』


 うん?

 つまり、この怒ってるという、その怒った時がいつの怒ったヤツなのかを明確にしてない。

 そういうことか?

 現在形にしてるけど、それはいつも現在を表してるわけではないのは、特に日本語の場合には言えることだ。


 いや、そうとも言えるし、この『怒ってるんだと思う』の思う。これが曲者だ。

 たしかに、ユミがそう思うのは自由だからな、これは、ユミの推測であり、真実と違ってもいいわけだ。

 つまり、ユミは、あの写真について、ウソであるという証拠は見せておらず、ただ言葉だけでオレがそんな事をしていないと言ったから、あの時は早乙女はまだ確信まで至らず、わだかまりがあり、怒っていたと言えなくもないか。

 その発言の後だからな、あの写真のネタ元を押さえたのは。


 ユミ、お前の本音をここで明らかにするのは、やめとくよ。

 それは、まだ早乙女には早いかもな。

 ユミにも考えがあるんだろう。

 どうせ、あの事が明らかになる日も近いかもだし。


「まあ、それについては、今、真実がわかったから、もういいや。もう一つ、ユミに質問だ。オレが言い負けるのを予想してたなら、なぜオレに護道の罠に対するヒントを教えてくれた?お前、護道がいい気になって欲しかったのだろう?それで、護道が調子に乗ってボロを出すのを待っていたんだろう?だったら、なぜ、護道に不利な情報をオレに教えたんだ?」


 ここで、ユミは、パフェをぱくついた。


 食べながら、ちょっと困った顔をした。


「ユミ、わたし、そんな話は聞いてないんだけど?」

 今度は、早乙女が、ユミを冷ややかに見るのだった。


 おいおい、なんだよ、これ?

 こいつ等、仲が良いってのはウソなのか、どうなんだ、これ?

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