第114話 オレは勇者で君達は聖女②

「カズト、紫苑のことだけど、ホントは彼女から言って貰いたかったんだけどね。でも、あの様子だと、紫苑は話さないと思うし、このままにしときたくないから、私から言うわね」

 早乙女は、キッと、オレを見て、それからパフェを口に運んだ。


 いや、そこでパフェを食うのかよ!

 って、ラブラブだった頃のオレだったらツッコんでいただろう。


 しかしだ、ちょっとイイ感じになったと思ったのは、オレだけなのかもしれないと思うと、この勿体付けて食べる動作に、不安を感じていた。


(ちょっと、ここで冷静にならなくちゃ。ここは糖分を取るところね)by早乙女


 ユミも、ここで一息入れようとしたのか、黙ってパフェをぱくつく。


 うん?

 ここは、パフェを食べないと、間がもたないな。

 でも、それはちょっと、これからマジメな話がって時に、オレがそんなことをしたら・・。


「これ、美味しいね!」(早乙女)

 えっ?


「うん。いくらでも行けちゃうよ」(ユミ)

 えっ?


 君達、そういう感じ?

 オレは、パフェを食べるのが解禁されたと思い、パフェに差してある、棒状のチョコを指でつまみ、口に入れた。


「うん?これはビター風味にしてるのか。ビターミン(ビタミン)も、D2、E、B3などを含有する、カカオ70%以上のハイカカオのチョコだ。そして、特にミネラルに含まれる鉄や銅は貧血予防、フェニルエチルアミンはエンドルフィンという脳内麻薬を分泌。エンドルフィンは精神的ストレスの解消に効果的であり、免疫力を高める効果もある・・・・」


「カズト!こっちの世界に戻ってきて!」

「うふふん。流石は勇者ね。これがその能力、だから私は勝てなかったのかな、実力テスト」


「えっ?これは勇者の能力だったの?そうなの・・・・」

「香織、まだまだ勇者って、こんなモノじゃないわよ。ね?」


「ね?」(オレ)

 ねって、なんだよ。

 って、ここで勇者について教えるって事?

 違うよな、紫苑の話じゃねーのか?


 しかし、これはカカオでエンドルフィンが出て来て、ハイになってるんじゃないよね?

 ね?


「今は、そんな事を話すんじゃないだろ?早乙女、続きを言ってくれ」


「うん、えっと、紫苑の事よね。紫苑には妹ちゃんがいるの。その妹ちゃんが難病を患っててね、その治療には最新式の設備のある所でないとダメなのね。それで、一応難病指定なんだけど、何もかも医療費を助成してくれるわけではなくて、それでも研究という名目で、無料で最新の治療を受けさして貰ってるの。その病院は、護道君の所なのよ。護道君の会社でお父さんも働いてて、その伝手つてとか、護道君が紫苑と同じクラスになったりして、良く知ってるというのもあって、そこに入れて貰ってるのね。それでね、そういう事もあってね、紫苑は護道君からのデートの誘いを断られないのよ。でもね、紫苑は護道君と付き合うつもりはなかったの、この前までは。それが、あのとき・・」


「ちょっと待ってくれ!早乙女、お前の言ってる事、ちょっと頭に入って来ない」


「えっ?なんでよ?」


「すまん、お前の口の端のクリームが気になって仕方が無かったんだよ!」


「えっ!・・・・ここ?とれた?」

 早乙女は、ちょっと可愛く頬を染めた。


「ああ、すまない、紫苑の妹って、たしか、かりんちゃんだよな」


「「えっ?」」


「うん?」


「何で知ってるの?」(早乙女)

「まさか、カズくんって、紫苑のストーカー?」


「えっ?カズト!そうなの?だから、紫苑のことを聖女だなんて・・」

「そうね、オカシイと思ったわ。そうなのね、カズくん。わたしというステキな聖女がありながら・・」


「おいおいおい!!なんでだよ?なんでそうなる?全然、不思議じゃないだろ?オレは、紫苑と幼馴染なんだからな!」


「「えっ?」」


「はあ?なんだよ?えっ?お前等、オレ、言っただろ!オレは村雨だって!」


「「うぇっ?」」


「した!いや、そうじゃなくて、お前等、オレの言う事を信用してねーのかよ?」


「・・信じてるけど、だって・・」

「カズくん、もしかして、村雨くんなの?香織と紫苑が好きだった?」


「はあ?だから最初からそう言ってるじゃねーか!」


「村雨くん・・顔が変わったね・・それに、昔より堂々としてるっていうか」

 そう言うと、やにわに早乙女は立ち上がった。


「とりゃー!隙あり!」

 早乙女は、オレの後ろに回ると、手刀を右肩に叩き込んだ。


「いった!やめろよ!」

 そう言って、オレは、右肩をピクピク動かして、首を回した。


「うう、元気あるじゃん!」


「委員長、暴力反対!」


「うう・・うわーーーんんんん!!」

 早乙女は、泣きながらオレに抱きついてきた。

(いいんちょう、ぼうりょくはんたい・・そう言ってたよね、いつも。バカみたいに、いつも、そう言ってた・・村雨くん・・おかえりなさい)


 この早乙女の一連の行動は、小学校の時に、オレにいつもちょっかいを出してきた、彼女なりのスキンシップだった。

 そのことが、今、良く、オレにはわかった。


「泣くなよ、ほれ!」

 オレは、勇者だ。

 オレに泣いて抱きつく聖女カオリンにハンカチを渡し、頭を撫でてやった。


「良かったね、香織。私は、わかってたよ。カズくんが村雨くんってのは。でも、それはあなた自身が納得しなくてはならない事。でも、ホントに、良かったね!」


 オレは、ユミの顔を見た。

 ユミも眼にハンカチを当て、涙を流していた。


 ユミ、おまえ、ウソつきだろ?

 おまえ、ストーカーとか言ってたし。

 その涙は本物のようだが。

 まあ、その涙に免じて、そこは追及しないでおくよ。


 ユミといい、弥生さんといい、こいつ等、何となく似てるところがあるよな。

 食えねーヤツ等だぜ、ホントに・・・・。

 そう思うと、笑いが込み上げてきた。


「ふふ、あはははは!もう、いいだろ?オレは、たぶん、あの頃の心の傷は克服できたと思う。だから、もう心配するな。大丈夫だから」


「うん・・ごめんね・・あのとき、何にもできなくて」

「もういいよ。アレは、子供の頃の話だ。もう、オレ達はあれから成長してる。あの時とは違うんだ。もう、正しい事は正しい、ダメな事はダメって、ちゃんと言える心に成長しているハズだ。オレは、だから勇者になれたんだよ。そして、君達も聖女になれたんだ。だから、もう過ちは絶対に繰り返さない!」


「カズくん、イイ事いったね!」

「バカだな、オレは勇者だからな!」


「うふふ、私も聖女だからね」(ユミ)

「うん、私も聖女だから」(早乙女)


 これで、オレは、ホントの勇者と聖女の関係になったと思った。

 オレは強い絆が出来たと思ったのだった。

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