第97話 赤いジャージ
オレ(キィは、オレと言っても許してくれるようになった)は、あるマンションに案内された。
てっきり、ユミと同じマンションかと思ったが、そうではなかった。
しかし、近くではあった。
作りも庶民的な感じで、普通のユニットバスのある1DKのタイプだった。
そして、もう夜も更けてきてはいるが、これから修行の始まりだ。
人型になったキィと、また例の神社で戦闘訓練を中心に修行するのだが、そこへ初めて転移する練習をした。
一度行ったところは、しっかりと覚えて、転移できるようにする。
それが初歩の転移。
ユミの所へキィが転移した方法は、もっと上位の転移だ。
それを使うには、千里眼のスキルが必要なので、その練習もする。
周囲のオーラを感じ取る。
その範囲を広げ、より多く、より広範囲に意識の幅を広げて、オーラを感じ取る練習を繰り返す。
合間に休憩と称した戦闘訓練をする。
オーラを感じ取ると、今度は、それを映像として見る練習を繰り返す。
また、その合間に戦闘訓練。
こうして、また、世が明けようとしたので、学校の例の場所へ転移できるかをやってみる。
すでに、じいちゃんから写真の画像のように記憶する練習は修行の基礎としてマスターしているので、場所の様子をはっきりと思い浮かべて転移する。
そして、この前のように眠りについた。
それから、分心をして、また退屈な授業を受けた。
そのように過ごした水曜日は何事も無く終わった。
翌、木曜日の授業の合間の休み時間に、野球部にまだ入っていないアイツ等(元田辺中の三人)が来た。
「藤堂、お前、こんな後ろの端っこに居るのか?おかしくない?」
「いや、いいんですよ、これで。それより、何の用ですか?」
「お前、その口調、おかしくない?」
「いや、いいんですよ、これで。それより、何の用ですか?」
「・・・おまえ・・まあ、いいか、護道との勝負の時間が変わった。明日の昼休みにするんだってよ」
「はい、別にいいです、それで」
「お前、どうしちまったんだよ。あれか、昔ちょっと心の病をしたとか言ってたよな。最近、ラインにも出ないし。それか?」
「はい、そんなものです。だから、あまり話しかけないでください」
「おい、藤堂!そんなので」
「声がデカいって」
「ここには護道が居るんだから(小声)」
「大丈夫ですよ、君達の期待には応えますから、必ず」
「・・そうか、その対決の後でも良いから、今のお前の事情を説明してくれよ」
「大丈夫ですよ」
「ホントに、大丈夫なのか?まあ、いい。とにかく、がんばってくれよな」
「ホントにがんばれよ」
「オレ、また君のボールを受けるから、明日は朝練に来てよ」
「はい、わかりました。必ず、行きます」
「頼んだぜ!じゃあな」
「またな」「明日の朝だよ」
「はい、またです」
その日の昼休みのこと。
「藤堂、相変わらず、こそこそとどこかへ行くんだな、お前は」
「ちょっと、顔貸せや!」
「へへへへへ、なに、ちょっとだけだから」
護道の以前からの子分が来た。
一緒に外に出て、水道の蛇口が並んでいる所に出た。
「おい、藤堂、ちょっとそこに立ってろ」
「オレ達が、お前を綺麗にしてやるからな」
「へへへへ、ありがたく思えよ!」
蛇口にホースをつけて、オレのアタマから水をぶっかけた。
天気は良いとはいえ、まだ4月。
水を被るのは、流石に冷たい。
「!!!!!!」
オレは、目を醒ました。
しばし、沈黙。
「お前等、こんな事をしてタダで済むと思っているのか?」
「いや、お前が臭いのが悪いんだろ!」
「クラスのヤツ等が何とかしてって頼んできたんだから、仕方が無かったんだよ。オレ等に言われても、こんな事くらいしか思いつかねーしな!なあ?」
「ああ、臭いお前が悪いんだろうが!まあ、今日のところはこのくらいにしといてやるから、お前、迷惑掛けんなよ!」
「クラスのヤツ等って誰のことだ?誰がそんな事を言った?」
「そんなの決まってるじゃねーかよ。クラスの委員長とか、女子の代表の子とかだよ」
「誰だっけ、あの美人な子と可愛い子」
「そうそう、早乙女さんと、護道さんの恋人の白藤さんだっけ?」
「ああ、そうだった。そんな名前の子だったよな」
「オレ達、女の子に頼まれたら弱いからな」
「特に、可愛い子にはよ~~」
「「「わはははははは!!!」」」
ここまでの映像、記憶した。
アイツ等ではない、護道だ、みんな護道だ・・と思う。
明日の対決の前に、オレに風邪をひかす?または、オレの元カノの早乙女の名前とか、可愛い女子代表?のシオンの名前を使って動揺を誘うとか、バカじゃねーか。
コイツ等の汚いオーラと、平気でウソをついて?興奮している醜い感情の波動を感じる。
気持ち悪い。
オレは、何も言わず、そこを離れた。
誰も居ない所へ行って、オレの住む部屋に転移した。
服を脱ぎ、全自動の洗濯機に入れる。
オレ自身は、シャワーを浴びた。
そう言えば、修行をした後、すぐに学校へ行ってたな。
せめて、これからはシャワーくらい浴びるか。
オレは、まだパンを買ってなかったので、コンビニへ行って昼ごはんを買おうと、弥生さんが、とりあえずくれたジャージ姿に着替える。
今は、これしかないからね。
お昼ご飯を食べて、この姿のまま、学校へ転移した。
みんながオレをジロジロ見たり、コソコソ話したりしている。
無視だ!
シールドを張る。
「あはははは!藤堂、お前、体育の時間じゃねーぞ。どうしたんだ、いったい!しかも、女子の着る赤いジャージだぜ、それ!あはははははは!」
護道が近寄ってきて、白々しく声を張り上げた。
無視だ!
「おいおいおい、返事位しろよな!」
「護道君、怒らないの!ねえ、藤堂君、どうしたの?制服は?」
最近は、護道と白藤って、セットだよな。
ウザいよ、全く。
「白藤さん、あなたはそのわけを多少は知ってるんじゃないでしょうか?」
「えっ、どういう意味?」
オレは、わざとシオンに難癖をつけた。
どうせ、護道と示し合わせて笑うんだろう、後で。
ウザいんだよ、いい子ぶりっ子は!
『落ち着け、カズト・・・でも、もっと言ってやってもいいんじゃないか?』
『そうか、でも、お前がそんな事を言ったから、もう冷静になれたぜ』
「白藤さん、護道君、明日の対決、僕がボロ負けするのを楽しみにしてるんだろ?君達、勝ちたいんだよね、姑息な手を使ってでも。あっ、さっきは君達とは違う人の手を使ってたけどね。お目出たいよね、ホントに。楽しいかい、僕をからかうのが。まあ、まだ負け犬になっていない今をせいぜい楽しむがいいさ!」
「はあ?変人が!お前、オレに勝てるとか思ってるのか?赤ジャージ野郎が!くくくくく、紫苑、笑っちゃうよな、くくくくく」
「二人とも、もっと仲良くできないのかな?明日の対決が終わったら、ノーサイドだよ?たしか、ラグビーの試合の後は仲良しって意味だったよね」
「仲良しってか?あははははは!白藤さん、君は頭がお花畑なのかな?」
「なに!紫苑の悪口を言うなよ、ボケが!」
「護道君、怒らないの。もう、ホントに二人とも、仕方が無い人たちだわ」
「紫苑、ちょっとこっちに来て!そんな藤堂なんか相手にしないで、ちょっと話があるんだけど」
「えっ、ユミさん、な~に?」
シオンが向こうへ行くと、護道も向こうへ行ってしまった。
「ちっ!お前、明日は容赦しねーからな!」
そう、捨て台詞を残して。
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