第93話 おじい様との対決④

「ここではなんですんで、場所を変えませんか?」


「・・・いいだろう。では、来るがいい。だが、来るのは、お前だけた!」


「えっ、でも、わたし、おじい様とお話したいわ!」


「わはははは、そうか、ユミはワシと話したいのか!でもな、少しだけコイツを借りるぞ。男同士の拳の語らいってヤツがあるからな!その後で、ゆっくりと話そう」


「カズきゅん、後でね」

「カズきゅん、お大事にね」(弥生)


 僕は、ユミさんに行ってくると頷き、おじいの後をついて行った。


 応接セットのある書斎に移動した。


「では、改めて自己紹介といこうじゃないか。わしがフジグループ総裁、藤原宗次郎そうじろうだ!」


「御前は、御歳85歳、生涯1人の女性を愛し続け、40歳でやっと御結婚され、45歳でやっと1人娘を授かり、御自分も総裁の地位に就かれ、15年前に孫娘のユミ様が御生れになり、幸せな生活を送って来られました。だが、しかし、愛する妻と娘夫婦とは10年前に事故で他界されました。本当に、本当に、おいたわしい事でございました。うううう・・・・」


 弥生さんは、あんな事を言いながら、おじいの秘書のようにして、ついて来ていたのだった。


 弥生さん、何気にやっととか、ディスってないか?

 しかも、なんとなく、白々しい泣きマネなんかして。


 おじいも、目頭をハンカチで押さえている。


 えっ、泣くところか?

 僕は、どうリアクションすればいいんだ?


 笑ったらダメだ、それだけはわかる、わかる気がするんだけど、何だ、この違和感?


 おじいのハンカチ、小さなひょっとこの絵柄で一杯のヤツで、所々に笑の字が入っているし。


 弥生さんは、手にしている紙で顔を覆うように見せかけて、紙の裏を僕に見せてる。

 それには、笑笑と書いてあるし。


 えっ、まさかの笑うとこか?


 その時だった。


「ぷーーーーー!!!」


 小さく、控え目な音ながらも、自己主張の強い音が聞こえた。


 臭くはなかった。


「オホンッ!」

 おじいが、咳払いをした。


「ぷっ!」

 僕は、思わず、吹き出してしまった!


 しまったと思ったが、後の祭り!


「なんだ、若僧!何がおかしい?」


「いえ・・」

 どうする、これ?


 しかし、よく考えてもみろ。

 おかしいだろ、これ?


 おじいのハンカチはともかくも、あの弥生さんの笑笑ってのは、何を意味する?


 つまりは、笑うのが正解?

 ならば、その理由を言うのみ。


「僕は勇者になったばかりで、悲しみに沈む人の心を、すぐに癒やすチカラなど、まだありません。ですが、福を呼ぶ事は出来ます。そうです、笑う門には福来るって言うではありませんか?トップアスリートの方で、苦しい時の対処法として、笑う事を挙げられている人が何人かおられます。苦しい時、悲しい時、無理をしてでも、笑ってみて下さい。笑う事が出来れば、もうそれで気持ちが変化してきます。それは、脳神経医学の研究でも証明され、幸福のホルモンと呼ばれる・・」


「もう良い!そうか、笑えとな?・・そうか、そうか・・くっくっくっくっ」

(娘婿の時には、ワシの両親の死の話で試したが、娘婿と反対の事を言って来たな。面白い。アイツは、泣いてもいいんです、そういう時は思いっきり泣いても構わないんです、それを笑う人の方がおかしいんです、とか、いかにもの正論を述べたな。唾棄すべき意見だった。おならの音にも我慢しよったな。やせ我慢をする時は、時と場合による。突然の出来事で、人間の本性がわかるというモノ。ここでのやり取りに忖度するような度量の小さいヤツではグループを率いられん。まあ、実際それまでの男だったよ。これだけのヒントを与えてやったのに、四角四面の、常識通りの、良い子ちゃんブリおって、だから反対したのだが、コイツはどうだ?実に興味深い、だからもっと確かめてやる!今回の婿取りは、可愛い孫娘だ!二度と失敗はしない!)


「どうやら、口が達者という話は、最初の自己紹介と言い、今の話と言い、ウソではなさそうだな。しかし、だ!ユミには話していない君の情報を、我々は得ている。もう、お前の表向きの自己紹介は、聞いた。では、本当の自己紹介をしようじゃないか」


 なに?

 どこまで知ってるんだ、このおじいは?


 このおじい、藤原宗次郎は不敵に笑うのだった。








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