第92話 おじい様との対決③

「まだ、お前におじい様と言われる筋合いはない!」

 そっちかい!


 僕は、心の中で盛大にコケました。


「おじい様、怒らないの。せっかくの美味しい唐揚げが台無しだよ。それに、もっと彼の事を知らないと、頭ごなしに言うのは良くないわ」


 まるで、母親のような言葉をおじいに投げかけ、諭すように言うとは、ユミ、お前ってヤツは、どこまでも上からなんだな。


「ふふふ、怒っとらんよ。このくらいでビビるようなら、当主の器にはならんからな」

 投手ではないよな・・・・。


『加点10点。カズきゅんも、落ち着いて来たね』

『お前まで、カズきゅん言うな!』


『残念、口答え!減点10点!』


 く・・・そっ・・、遊んでやがるな、キィ、テメーー!


『言葉使いには気をつけましょうね』

『は・・い・・』


「うふふふふ、おじい様ったら、お茶目なんだから!」


「そうか?いつも言われるけどな!わははははは!」


 いや、言われねーだろ、あんた。

 目が怖いし。

 孫にお茶目と言われて喜ぶじじい、なんか悲しいぞ。

 僕は、こんなおじいにはならないからね。


 でも、そうか、孫のユミにだけは、お茶目なおじいになっていたいのか。

 この人、意外と可哀想なのかもしれないな。


 こうして、ユミさんの取り成しで、食事はつつが無く終わり、デザートを食べるティータイム時間となった。


 専属の女性パティシエが説明に来た。

「抹茶パウンドケーキプロバンス風ホワイトチョコの香りです。すべて特別な素材を使い、特別な隠し味で、特別なこの日を演出しております」

 そう言って、このパティシエは、ユミさんにウィンクした。


「君が、このケーキにした意味は、他にもあるのだろう?」


御前ごぜん、わたくしはユミお嬢様に、お幸せになって頂きたいのです。ですが、このグループの孫娘であるお嬢様がお幸せになるのは、庶民の私には伺い知れない苦労があろうかと思います。現に、今もお嬢様は・・うううう。わたくしは、そのお嬢様と、お嬢様がお認めになったこの方に対して、わたくしなりのエールを送るつもりでお作りしました。ほろ苦い抹茶ですが、身体には良いモノであることは御存じの通り。これからも、いろいろと苦い経験を積まれることと思いますが、それがひいては心の滋養となりますように、糧となりますようにと願い、抹茶にいたしました。一方、ホワイトチョコを使ったのは、ホワイトチョコの様に甘い、それでいて円やかな、そんな関係が続いていきますようにとの願いを込めました。そして、パウンドケーキ仕立てにしたのは、それらの苦みも甘味も内包しつつも一体となり、柔らかく受け止められる、柔軟でしなやかな生き方を願って仕立てました。隠し味は、もちろん、スタッフ一同からの愛情です!御前、是非とも、お二人の」


「良い!わかった!下がって良いぞ!」


 このおじい、また途中で遮ったな。

 だが、しかし、プロバンス風の意味がわからんかったのだが。


 僕たち3人は、ケーキを食べ終わり、紅茶を飲んでいた。

 この風味、この紅茶は、素人の僕でもわかる上等な茶葉を使ったものだ。

 優雅で香り高い匂いが鼻孔をくすぐり、後味に豊潤で繊細な風味を残し、心の中が洗われるようだ。


「さて、君達の関係は、どこまで行ってるんだ?まさか、もうみさおを捧げたのか?」

 この紅茶を飲みながら、何て下世話な質問をするんだ、このおじいは!

 もちろん、軽く受け流す所だな!


「もちろん、昨夜、全力で捧げました!わたくしは、もう、カズきゅんについて行きます」


 バキッ!!

 バキッ!!

 ガギギギ!!(口から)

 また、不穏な音が!

 高強度入れ歯か?


 えっ?

 今、全力って?

 捧げちゃったのか?


 おじいの言った操っていうのは、そのものズバリの処女のことじゃないのか?


 違うのかな?

 広義の操なら、身体じゃなく、心の事だよね。


 いきなりの質問だし、もちろん、心の話だよね!


 アレは、キスなんだから。

 でも、それを言うのは、憚られた。


 弥生さんが、また、御前のお世話をしている。

 どうやら、御前はクルミを持っていて、それを握りつぶしたようなのだ。

 このおじい、なんてチカラだ!


 いや、今はそんなことを考えてる暇はない。


 おじいがこっちを睨んでるじゃねーか!


「御前、カズきゅんは信頼に足る殿方です。この美人秘書弥生が身を以て経験いたしましたので」

 えっ?

 何て言った、弥生さん?


「や、弥生もなのか?」


「もちろん、美人秘書なので」


 バキッ!バキッ!

「このクルミ、柔らかすぎるな。もう少し、歯ごたえのあるモノを握りつぶしたいのだが、カズきゅん!相手をしてくれるか?」


 なんだよ、これ!

 たしか、全力で応援するとか言ってたよな、弥生さん!

 なんて余計な事を言ってくれたんだよ、弥生さん!


 弥生さんは、テヘペロ、ってしていた。





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