第79話 カギ

「えっ、どういうこと?」


 オレは、目の前の更地を見て、途方に暮れた。


「グルグル、グルグル、グルグル」


「うん?」


 大きなカエルが、こちらへ跳ねて来た。

 久しぶりに見た。


 このカエル、オレが紫苑の為に作ったぬいぐるみのお手本となったヤツだ。


 カエルは、オレの前で止まると、長い舌をベロっと出した。

 ベロの先には、少し大きめのカギがくっついていた。


 もちろん、オレはそれを取った。

 汚い?とか思ったが、取らなければいけない感じが、カエルの目から感じられた。


 カエルは、舌をまた、口の中に戻すと、素早くどこかへ帰って行った。

 カエルだけに・・・。



『ジンジャ、ダ!』

 突然、オレの頭に声が響き、神社のイメージが浮かんだ。


『イケ』


 そこへ行かなければいけないのだろう。


 何がしゃべった?

 って、この鍵しか居ない。

 なぜか、不思議とも思わず、そして、言われるがままに身体が動いた。


 オレは、その神社へ向け、歩き出していた。


 そのイメージに浮かんだ神社は、前に早乙女と行った、あの神社だ。

 あそこへ行くのか?

 早乙女は、まだ時々、この神社に行ってるのだろうか?


 しかし、じいちゃんとばあちゃんは、いったい、どうしてるんだろう?


 家が無くなるなんて、これって現実なのか?


 あのカエル、今度もオレの前に来たけど、アレも何なのかわからん。

 カエル、やっぱ、グルグルって鳴くよな。

 オレは正しかったんだよな、クソの護道、笑いやがって。

 しかし、カエル、元気だったよな、結構な昔に会ったんだけど。

 でも、アイツの子供かもしれない。


 そして、カギ。

 オレの頭に話しかけてくる、これは何なんだ?


 とにかく、一連の出来事のカギは、この鍵にあるハズだ。


 オレは、そんな事を考えながら、電車に乗って、再び、学校のある街へとやってきて、すぐに、神社への階段下に来た。


 そして、神社の階段を登ろうと思うのだが、電灯とかが点いていない。

 真っ暗だ。


 よく見ると、階段の手前でロープが張ってあり、何やら脇に立て札があった。


 立ち入り禁止?

 落雷で、建物が全焼したらしい。


『ハヤク、イケ』


 こいつ、目でも付いてるのか?


 しかし、今はこいつの言う通りにするしか無いので、周りを見回して、ロープをくぐり、階段を登って行った。


 真っ暗だ。

 階段は、街の明かりで何とかなったが、上は真っ暗闇。


 今晩は、月も出てないや。

 他人に咎められなかったのは幸いしたが、こうも暗いと、ヤバい。


 いや、怖いとかじゃなくて、ちょっと恐ろしいだけだ。

 すぐ下がまだ明るい繁華街だというのに、ここは静まり返っていて、不気味さが漂う。


『オイ、スコシ、チカラ、クレ!』


 チカラが何を意味しているのか、瞬時にわかった。

 オレの思念のチカラというか、オーラのチカラというか、とにかく、鍵に念を送った。


 手に持つ鍵が淡く光り出した。


 そして、それに呼応するように、社殿があった辺りの、まだ退かされていない瓦礫の中に光る所がある。


 オレは、そこへ、鍵の光を頼りに足を向け、やがて、何とかその光っている傍に来た。


 すると、箱の様なモノが空中へ浮上してきて、中空で止まった。

 その箱の前面には、鍵穴があったので、もちろん、手に持つ鍵を差し込む。


 蓋が開き、中には薄い書物が入っていた。

 それを取り出し、ページをめくった瞬間、いきなり、辺りの景色が変わった。


 何か大きな部屋で、体育館の様なそれは、床の性状が固くも柔らかくもなく良い感じで、四方も同様な素材でできている様に思われた。

 この部屋は、昼間の室内程度の明かるさがあり、温度も寒くはなかった。


 オレは、箱の中なのかと、一瞬思った。

 と、その時、目の前の空間に文字が浮かび上がった。


『ようこそ、試練の間へ。お前は、勇者の試練を受けたいか?』


 なんだ、これ?


『ハヤク、コタエ、ロ!』


 また、頭の中で声がした。


「お前は誰だ?どういう事か、説明しろ?」


『モジ、ヨメナイ、オマエ、バカ!ユウシャ、バカ、イラナイ!ヨッテ、シレン、オワリ!』


「まてまてまてーーーーー!!オレは文字読めるから!!」


『・・・・・ハンテイ、チュウ・・・・・』


『チャンス、ヤル!モンダイ、コレ、マチ、ガエズ、ヨメ!』


『東京特許許可局』


 この文字が、目の前に浮かんだ。


 はあ?

 コイツ、クソ野郎じゃねーか?

 難読文字かと思ったら、確かに漢字ばかりだけど早口言葉とか、キタネー!


『クソ、イワナイ!キタナイ、コトバ、ユウシャ、シッカク!』


「まてまてまてーーーー!!お前、オレの心を読めるのか?」


『アタリ、マエダ!ココロ、へ、ハナス。ダカラ、ヨメル!バカ、ナノカ?』


「わかった、読むから!よく聞いとけよ!」


『マテ!ハジメ、イッテ、カラ!コンナ、ニ、ハナス、シンドイ、ゾ!ハヤク、ヨメ!ハジメ!』


「とうきょうとっきょきょかきょく!」

 オレは、確実にゆっくりと発音して言った。



『ダメ、シッカク!サヨナラ!』


「まてまてまてーーーーーー!!」


 オレは、もう失格なのか?

 間違ってなかったハズ!

 いったい、どうすれば・・・・・。

 オレは、困惑したのだった。


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