第69話 勝利宣言

 紫苑は、一瞬目を瞑った。

(わたし・・・・・・)


 そして、微かに頷くと、目を開けた時には、笑みを浮かべて護道の手を取った。


「・・はい、よろしくね」

 小さい声だか、はっきりとした口調だった。


 護道は、その手をしっかりと掴むと、まるで勝利宣言のように上へ手を突き上げた。


「やっっったぜぇーーーーー!!!」


 護道は、もう一つの手も挙げて、万歳をした。


 そして、子分達が待ってたかのよう声を上げる。

「ごっどっおっ!しっおっんっ!ごっどっおっ!しっおっんっ!・・・」


 拍手が起こる。

 早乙女だ。

 すると、女子からも、やったねとか、頑張ったとか、やりおるとか祝福の声があちこちで起こり、拍手が響くのだった。


 紫苑は、顔を赤くしびっくりしていた。

 目から、ひと雫、涙が頬を伝ったのを空いた左手で素早く拭く。


 そして、紫苑はまた笑顔に戻って、喜ぶ護道を見つめるのだった。


 護道は、みんなの声に合わせてエイエイオーという感じで、手を上げ下げし、自らも声を出すのに忙しく、そんな彼女を見ていなかった。


 ただ、ユミだけは、白けた笑顔でこの光景を見ていた。



 そして、練習も終わり、携帯が1時間だけ許されたので、クラスのみんなに手渡される。

 一部の者の携帯が弄られている事も知らずに。


 護道達は早速クラスラインを作り、みんながそれに参加するように促す。


 そして、しばらくすると、そこに突然、藤堂の見られては困るような画像が上げられた。

 更に、ある女子の証言も紹介されていた。


 早乙女がすぐに『女の敵』と書き込む。


 しかし、紫苑はすぐに『その女の子は恨んで無いし、藤堂君も後悔をしてるよ』と書き込む。


『誰だ?藤堂の為にも拡散させるなよ!』

 と護道。


 やがて、その画像や証言は消去された。


 クラスのみんなは、全員見ていた。

 誰がやったとか、藤堂を許す、許さないの議論が沸き起こる。


 ラインでは、もどかしくてラチがあかないと、クラスの者達は、クラス別に用意された自習室に集まった。


 全員が集合していた。


「みんな、静かに!こんな事で、まったく!せっかく、クラスがまとまりかかっている時に!藤堂のやつ!」(早乙女)


「ここは、オレが」(護道)

「香織!別に藤堂君がやったわけじゃないでしょ」(紫苑)


「ここは、オレが」(護道)

「みんな!誰が上げたとかはわからないから、その件は話し合わなくてもいいけど、このままだと、私たち、気持ちが一つにならないよね!」(早乙女)


「ああ、そうだ!オレ達は、頑張ってるのに、藤堂のせいで、このままだと」(護道)

「い〜い?みんな!藤堂のせいとか、あいつを許すとか、許さないとか、もうそんなのはいいよね!」


「ああ、そうだ!そ」(護道)

「みんなは、たぶん、わかってると思うんだ!明日の対抗戦の為に頑張ってるのに、こんな事ではダメだっていう事を!」


「ああ、そうだな!それ」(護道)

「い〜い?だいたい、あなた達、実際に藤堂に何かされたの?何か、個人的に被害を受けた事があるの?わたしは、あるのよ!わたしだけは、あるの!そのわたしが、あなた達をなだめる側って、おかしいよね?」


「ああ、そうだ、その通りだ!だから、ここは」(護道)

「いい?わたしは、藤堂を許さない!だけど、明日のホームルームで、彼の言い分を聞こうよ!いや、彼の謝罪を聞こうよ!クラスのみんなに、ウソの自己紹介をして、委員長選挙を混乱をさせたことを謝ってもらうのよ!私は、個人的にも彼に言いたい事を言うから!それでいいかな、みんな!」


「そうだな、だ」(護道)

「良し!早乙女がそう言うのなら、それで良いよな!」(松村)

「わかった!香織に任せるよ!」(紫苑)


「ありがとう、みんな!」

「香織、それじゃあ、あなたが藤堂君と話すまでは、藤堂君とはこの事について話さない方がいいんじゃない?」(紫苑)


「そうね!アイツに関していろいろな話が出たから、誰でも彼でもが言うと、変に混乱するかもしれないわね。だったら、紫苑の言う通り、私が話すまで、藤堂には内緒だよ。それまでは、話さないようにしてね!」


 こうして、クラスのみんなは、藤堂の事で、みんなだけの約束事を作り、逆に一致団結する事となって、心が一つになったように感じるのだった。


 ただ、ユミだけは、これらの一連の出来事を、冷ややかに見つめ、親友である早乙女を心配そうに見やるのだった。



 そして、翌日、全7クラス中、特進クラスは、男子のソフトボールは3位、女子のバスケットボールは2位、歌は2位、学力テストは1位、総合1位で優勝したのだった。


 表彰状は早乙女が、歴代のミニトロフィーは護道が受け取り、護道はそれを高々と上げて、ドヤ顔をしていた。


 子分達は、必死に大きな拍手を送った。



 その日の夕方には解散となったが、護道がクラスの希望者は打ち上げを、自分の親が所有しているレストランで、無料で行うというので、殆どの者が出席した。


 その中には、久美子や護道の他のクラスの子分も居た。


 レストランだが、ステージが用意されてあり、みんなは食べたり飲んだりしながら、カラオケを楽しんだ。


 護道は、音痴だったが、紫苑のフォローでなんとかサマになっていた。


 ユミの歌がゲキうまで、普段のクールさとは違う情熱的な歌い方だったので、男子の殆どは心を奪われるのだった。

 その歌は、フランス語で歌われたシャンソンだった。


 切ない調べの部分は情緒的に、今にも泣き出しそうに細い眉をひそめて歌うサマに、男子どもは心震えた。


 綺麗な、透き通るような声質は、女子でも憧れ、紫苑も、ウットリと聴くのだった。


 しかし、ユミはソロで1度歌っただけで、後は、誰かと一緒に歌った。


 中でも、香織とユミのデュエットは、アンコールが鳴り止まず、ユミは、お金を取ると言い出して、護道が払う一幕があった。


 ユミは、お金には、センシティブなのだった。



 香織も紫苑も、トイレでこっそり、藤堂にラインをした。


 それは、ユミの歌に触発されたのか、その時の2人の想いを込めて書いたモノだった。


 だが、それを藤堂が読むことは永遠になかったのだった。



 あくる日、早乙女はラインをチェックした。

 藤堂のコメントがあった。

『指輪を買ってやったんだから、ムネくらい揉ませろよな!よろ♡』


 あくる日、紫苑はラインをチェックした。

 藤堂のコメントがあった。

『村雨っていう奴はめっちゃ変態だろ?そんな奴の事は忘れろ!そして、あっちゃこっちゃにデートしようぜ!オレ等は、もうお子ちゃまじゃないから、あっちゃの方もよろ♡』


 もちろん、藤堂は、そんな事があったなど知る由もなかった。


 2人も、まさか、ラインに細工をされていたとは思いもしなかったのだった。





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